『「ごめんね」』
アタシは絶対悪くないと思うの。
確かに、キミのベッドを毛だらけにしたのはアタシです。
でもね、そんなにしょげるくらいなら、寝室の扉は閉めてなきゃダメだと思うのよ。
特に換毛期には。
アタシは絶対悪くないと思うの。
確かに、そのチェストを傷だらけにしたのはアタシです。
でもね、「これ買ったばっかりなのに」とか言うくらいなら、アタシが満足するような爪研ぎグッズも一緒に買っておくべきだと思うのよ。
アタシは絶対悪くないと思うの。
でもね。
せっかくアタシと一緒にいるのに、今日のキミってば、ため息ついたり、しかめっ面ばかりしたり。
こんなのは、嫌なの。絶対。
だからね。
アタシは絶対悪くないと思いたいけど、言ってみようかしら。
仲直りができるっていう、人間のおまじない。
……アタシにも使えるといいんだけど。
「ごめんね」
『半袖』
他の人と比べると遅いかもしれません。
ただ、日中は汗ばむ日も増えましたから。
私も「そろそろ必要かな」とは思っていたんです。
押入れの奥に仕舞い込んだままの半袖のトップス達を。
でも、「やっぱり今日出さなくてもいいか」って思っちゃいました。
だって、これからの季節、日焼けも気になるし、キツイ冷房はこたえるでしょう?
半袖の出番は少ないかもしれないのです。
こんな屁理屈ゴメンなさいね。
ただ私がズボラなだけなのです。
『天国と地獄』
朝のランニング中に、ふと目に入ったのは万国旗だった。
私はお気に入りのポップスが流れているイヤホンを外して足を止める。
白っぽい朝の空に、カラフルで小さな旗が連なって揺れている。
私はクスリと忍び笑いをした。
なんだか大勢の子供が思い思いのクレヨンを持ち寄って、一斉に落書きをしたみたいだったから。
そんな万国旗の下には、真新しい白線の引かれたグラウンドが静かに広がっている。賑やかな空とは打って変わって、澄ましているように見えた。
でも、あと数時間もしたら、この澄まし顔したグラウンドの上を生徒たちが走り回ることだろう。
私は小さく笑いながら、また走り出す。
今日はもう、イヤホンは不要だ。
耳の奥では、小学生の頃にあの万国旗の下で聞いた曲が流れていたから。
確か、曲名はーー。