「この人、私お気に入りなんだよね」
全てはこの言葉を貰うため。
歌、ダンス、鏡の前での表情づくり、
ものすごく練習して、
どんどん上手くなって、
褒められることも増えてきて、
もっともっと好きになってもらいたくて。
元気を与えられるような存在になりたくて。
それでも。
飽きられて捨てられるのは本当に一瞬だった。
頭ではそんなもんだと分かってはいるけれど、それに常に怯えていた。
私はいつまでも皆にとっての一番のアイドルにはなれない。
誰よりもあなたの笑顔が大好きで、
誰よりもあなたの言葉が大好きで、
誰よりもあなたの優しさが大好きで、
誰よりもあなたのことが大好きなの
バレンタイン
あなたに渡せなかったこと、
いつか思いだして後悔するだろうか
皆でわいわいと手作りお菓子を自慢し合うようなあの空気は大嫌いなのに
あなたに渡したかったものは、私の臆病のせいで、もう渡すことは出来ない
あなたに笑ってほしかった ただそれだけ
待ってて。
まだ中学生ではないだろうが、幼さがどこか抜けていて端正な顔立ち。かわいい、と言われるのが相場な年頃なのに、綺麗さが勝つ。
その彼女が小さな弟を連れて、スーパーの中を歩く。
なんとなく目を引く。その美しさが理由ではない。挙動が明らかにおかしい。
弟を麺類コーナーの端に座らせたあと、彼女は周りをゆっくりと見渡す。
待っててね、すぐ終わるからね。
彼女はカップ麺に手を伸ばして、素早くその手に持っている袋に詰め始めた。何個も何個も何個も。
行くよ。帰るよ。
あぁ、お腹空いたね。
伝えたい。伝えたい。伝えたい。
眩しいステージの上で、踊る。ステップを踏む。回る。回る。回る。止まる。回る。
はっはっと息を切る。
音楽が、聴こえる。
歓声を、ある種叫びのようなこの声を、どっぷりと浴びながら、私は踊っている。
だけど
あの子の声はいつまで経っても聴こえない。一番聴きたかった。聴けなかった。あの子の歓声を私はもう聴くことができない。
聴きたい。あなたに伝えたいことがたくさんあるのに。