子どもの頃から、珈琲が好きだ。
はじめは、ミルクも砂糖もいれて。
甘いビスケットでも
上等なチョコレートでも
負けない香り。そして、
眠気覚まし。最強だ!
大人になるにつれ、
ブラックにも慣れた。
先輩が、ブラックだったからね。
通りすぎるだけでも、わかる香り。珈琲の香り。
いつ頃からか、
紅茶が好きな人たちがいることに気づいた。
いやいや、
紅茶派の増えたこと!
珈琲が苦手なんだって
大人になるって、言ってたのに
繊細な香りの選択。
ケーキも何やら儚げで。
ほぉー、チーズケーキですか。
わたしは、ブランデーでしっかり戻したドライフルーツとナッツを刻んだ、パウンドケーキが好きですよ。甘いやつ!
あー紅茶かぁ。
このタイプ選ぶよね、
そうに決まってる。位、
「あのこ」のイメージ。
それにしても、紅茶ねぇ。
きらいじゃないよ。ないけど
好みってものがある、ってだけだから。
今日は、ぷぃと出かけた
銀座の小さな道で
マリアージュなんちゃらを見つけて、吸い込まれた。
華奢な螺旋階段をのぼり
ポットにて、おかわりをして
ひとり飲む。
一口でたべられそうなケーキと。
だって、銀座だったから。
今のわたしは、個性を受け入れる、穏やかな大人だから。
一階には、壁一面、美しい缶に詰められた、それぞれの香りをもつ紅茶で埋め尽くされていて、
柔らかなワンピースの親子が
片耳に髪をかけながら
まるで宝石ように差し出された一匙の葉のやまに、顔を近づける。
「あれでわかるの?」
また、心で悪態をつく。
いかん、いかん
やっぱりこんな感じだよね。
そーだよ今も、こんな感じ。
紅茶の香りに包まれながら
三杯目の紅茶をすすりながら
(残ってるからといってそもそも飲んでいいのかもわからない)
先輩は幸せにやってんのかな。と思った。
いつか、わたしが
紅茶派にひるまなくなったころ
先輩にばったり会えたりしないかな。
人生、楽しんできた?
って聞いたら、
昔みたいに、
一息おいて、難しい言葉使って答えようとしてくれるのか
それとも、
穏やかに目を細めて、家族への、小さい愚痴かのろけかわからない話なんかが、はじまっちゃうのか。
多分、その言葉はきっと
紅茶の香りがするんだ。
嗅ぎたくないけど、聞いてみたいや。
ふぅ。お腹ちゃぷちゃぷ。
帰ろ。
朝一番の珈琲をたてるのだけは
変わらない、
先輩とは、一ミリも似てない
腹のたつだんなのいる家に
隣の長野ショップのおやきでも買って
ん?
これって、まさか?
自分の息を
はぁ、って、してみたくなった。
#紅茶の香り
初めての登園の玄関
小学校の入学式の校門
進学で上京する時の地元の駅
結婚式当日のホテルの鏡の前
あれは、おばあちゃんだったのか
いや、やはりお母さんだったのか
こわないちゃ。
だいじょうぶやちゃ
怖く、ないよ。大丈夫だよ。
の、田舎の言葉。
怖くないよ。は、断言。
やちゃ。は、
「や」の中に、きっと、と
念を押すような願いがある。
私が使おうにも、
使い慣れなくて、でてこない言葉。
もう二度と聞けない言葉だけど、
頭の中には、
いつも私の味方でいてくれたおばあちゃん声
愛されたくて、誉めてほしくてたまらなかった母の声
になって、確かに残っている。
いや、もしかしてそれは、
二人の声でも無くて
雪深い冬の先をしっている
戻ること無いふるさとの
女性たちの声なのか
怖ないちゃ。
大丈夫やちゃ。
と、内弁慶の私の背中を押す
愛言葉。
#愛言葉 2日目
連絡先やLINEを開けたとき、目的ではない名前が眼に入る。
「どうしてるんだろう」と思う。
だからと言って、「久しぶり。どうしてる?」と、用事も無いのに送ることも出来ない。
こわいから。
だって今まで、相手も私には送っては来なかったんだから。
もう、忘れられているか、何なら消しているかもしれない、
いや、どうでもよすぎて放置されてるかもしれない、私の名前。
それでも、
しなかった後悔より、した後悔。
迷ったけれど、一番気になってた
「久しぶり。そちら方面に行くから、時間あれば会いたいな」に
「ちょっと外科手術するわ。コロナで延びて、8月には手術」が最後になってた人に、思いきって
「どうしてるかなー」と送ってみた。
「ー」が、大事。重くならないよう、何気無さを装う。
「リハビリ中。来月は旅行でばたばたしてます。来年春には、元気になってると思います」
「そっか、よかった、無事手術よが済んで、旅行も行けるようになったんだね。」
「久しぶりに会いたいな」と送った返事から、一年たって「会いたいな」から、また更に半年先の春ね。
やっぱりなー。
今もまだ、会えない。じゃなくて、これは
会いたくないってことだよね。
送らなきゃよかったよ。
こんなのは、分ってたつもりなのに、痛いな、やっぱり。
もう名前が見えないようにしようか。
いっそ消してしまおうか。
遊んでたのはもう昔になってしまった、友だちの名前。
「また春まで、たまに連絡いれるわ。楽しくリハビリしてね。」と返す。
「たまに、連絡」なんて書いた。
ばかか、私。
未練がましい。
暫くしたら
おやすみ。のスタンプがきた。
おやすみのスタンプの前に
もうひとつ、スタンプがあって。
その絵の中に
「嬉しい」の文字。
ほんと?
嬉しかったのかな?
いやいや、いやいや。
適当にそれらしく選んだスタンプだよね。
分かってる。
よーく分かってるくせに
嬉しいの、スタンプの文字に、
また、踊らされそうな自分が
かわいそうになって、
よしよししてやりたくなって、
泣けた。
#友だち