あてこ9

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子どもの頃から、珈琲が好きだ。
はじめは、ミルクも砂糖もいれて。
甘いビスケットでも
上等なチョコレートでも
負けない香り。そして、
眠気覚まし。最強だ!

大人になるにつれ、
ブラックにも慣れた。
先輩が、ブラックだったからね。

通りすぎるだけでも、わかる香り。珈琲の香り。

いつ頃からか、
紅茶が好きな人たちがいることに気づいた。

いやいや、
紅茶派の増えたこと!
珈琲が苦手なんだって

大人になるって、言ってたのに

繊細な香りの選択。
ケーキも何やら儚げで。
ほぉー、チーズケーキですか。

わたしは、ブランデーでしっかり戻したドライフルーツとナッツを刻んだ、パウンドケーキが好きですよ。甘いやつ!

あー紅茶かぁ。
このタイプ選ぶよね、

そうに決まってる。位、
「あのこ」のイメージ。

それにしても、紅茶ねぇ。
きらいじゃないよ。ないけど
好みってものがある、ってだけだから。


今日は、ぷぃと出かけた
銀座の小さな道で
マリアージュなんちゃらを見つけて、吸い込まれた。

華奢な螺旋階段をのぼり
ポットにて、おかわりをして
ひとり飲む。
一口でたべられそうなケーキと。

だって、銀座だったから。
今のわたしは、個性を受け入れる、穏やかな大人だから。

一階には、壁一面、美しい缶に詰められた、それぞれの香りをもつ紅茶で埋め尽くされていて、

柔らかなワンピースの親子が
片耳に髪をかけながら

まるで宝石ように差し出された一匙の葉のやまに、顔を近づける。

「あれでわかるの?」

また、心で悪態をつく。
いかん、いかん

やっぱりこんな感じだよね。
そーだよ今も、こんな感じ。

紅茶の香りに包まれながら
三杯目の紅茶をすすりながら
(残ってるからといってそもそも飲んでいいのかもわからない)

先輩は幸せにやってんのかな。と思った。

いつか、わたしが
紅茶派にひるまなくなったころ
先輩にばったり会えたりしないかな。

人生、楽しんできた?
って聞いたら、

昔みたいに、
一息おいて、難しい言葉使って答えようとしてくれるのか

それとも、
穏やかに目を細めて、家族への、小さい愚痴かのろけかわからない話なんかが、はじまっちゃうのか。

多分、その言葉はきっと
紅茶の香りがするんだ。

嗅ぎたくないけど、聞いてみたいや。

ふぅ。お腹ちゃぷちゃぷ。
帰ろ。


朝一番の珈琲をたてるのだけは
変わらない、

先輩とは、一ミリも似てない
腹のたつだんなのいる家に
隣の長野ショップのおやきでも買って

ん?
これって、まさか?

自分の息を
はぁ、って、してみたくなった。

#紅茶の香り

10/28/2022, 8:43:50 AM