私の日記帳、と言えば聞こえはいいがこのノートはそんな大層なものではない。日常のふとした場面を書き留めた付箋をただただ貼っていくだけのノートで、故に少し分厚い。けれどなんだかんだこのノートを気に入っていた。
一日に一枚も増えない日があれば、半ページ一気に埋まる日もある。色々な大きさの付箋が常備してあるからか、パズルのようにみっちり隙間を埋めようとしたページさえある。これが案外気が楽なのだ。毎日付けなくていい、長文である必要は無い、日々のちょっとしたことを残しておくだけ。
「コンビニで中華まんが出始めていた。早くない?」
「虹が出てた。嬉しかった」
「君がまた誰かと付き合ったらしい」
とかそんなこと。さて、とファイルに貼り付けていた付箋をノートへと貼りかえる。今日は一枚だけ。
私の日記帳、そろそろ新しいの買わなくちゃ
[私の日記帳]
向かい合わせは妙な緊張感がある、と思う。相手の一挙手一投足が見れるけれど、同じく自分の全ても見られているように感じるから。それがどうしても苦手で、普段の自分が変な行動をしていないか不安になる。だから、と思い家で過ごす時は座る前の前に鏡を置くようにした。変な行動をしたら直ぐに気付けるし、直せる。
ふと顔を上げれば、肘を付き笑いながらご飯を食べる自分が映る。はっとして直ぐに姿勢を正し、もう一度見直す。食事の時はちゃんとしなければ、と引き締めてまた一口を運ぶ、はず。動きが止まり、口に入る前にご飯は落ちてしまった。半分叩きつけるように箸を置いて、食器を置いて顔をぺたぺたと触る。恐る恐る顔を上げればそこには困惑して顔を触る自分がいた。大丈夫、何もおかしくはない、大丈夫。けれど怖くなってしまって鏡に布をかけた。
向かいあわせの自分が笑っていたなんて、そんなこと。
[向かい合わせ]
やるせない気持ち、というのが正直分からなかった。漢字で書けば遣る瀬無い。ドラマや小説でよく聞いたり目にしたりはあるけれど実際にはピンとこない。自分が使うなら「どうしようも無い気持ち」とかで終わらせてしまうから、やるせないとは言い難い。
それは自分だけではない、と思い君にも聞いてみた。やるせない気持ちって分かる?そう聞けば君は何となく、と返す。どんな感じ?と更に問い返せば少し悩んだ後に口を開いた。
「好きな人が自分じゃない人を好きになってた時、かなぁ」
君はぼんやりとした、心が入っていない空っぽの笑顔だった。その笑顔を見て心が少し苦しくなる。君にそんな笑顔はさせたくない、そんな言葉を吐いて欲しくない。けれど君の想い人を知ってしまってる自分は何も出来なくて。
嗚呼、これがやるせない気持ちなのか。
[やるせない気持ち]
海へ行きたかったな。
そうだね、今日は天気もいいしちょうどいいね。
出来ることなら一緒に。
本当に?凄く嬉しいな。
……ねぇ、
何?
……ばか
……うん、ごめん
また来る、から
来なくていいよ。君は忘れてくれていい。
またね
……さようなら
揺れる煙と鮮やかな花、君の背中。
海へ行きたかったのは君だけじゃない。
[海へ]
裏返しにしか考えられない自分が嫌い。褒め言葉を貰っても、贈り物を貰っても頭に浮かぶのはお世辞やら気の毒に思われてる、とか。だって人に期待してしまったら、もしそれが崩れた時どうしろというのだ。ならばこちらから一線引いておく方が何倍も良い。
「おはよう」
だから、こうやって話しかけてくれる君にさえ壁を作っている。君は優しいから、誰にでも挨拶をしているだけ。同じ言葉をそっと返すとふとあることが浮かんだ。
「……昨日のストーリー何?」
「君と撮りたかったから」
嗚呼、なんて酷いひと。昨日更新されていたストーリーの一つに君がいて、そこにはただ、君と自分の自撮りが上がっていた。なんでわざわざ?君には多くの友達がいるのに、なぜツーショなんて。普通、交友関係を保つためとはいえそんなことするだろうか。だって、そもそも話はするけど一緒に出かけるようなことは無いのだから、自分の写真が上がることがなくても何の問題もないような人間なのに。それなのに、なぜ君の隣に、自分が、
自分が、いる、なんて。
裏返しの感情も、風さえ吹いてしまえば、
[裏返し]