学校から帰宅してリビングまで靴下を脱ぎながら歩く。扉を開くとパズルを裏返して絵無しでやっている母がいた。また失恋したんだなと察する。彼女は失恋するといつもこうだ。前に理由を聞いたとき、思考を止めることができるような気がすると言っていた。世間一般には変わった立ち直り方なのだろうけど小学生から見ていた俺には、これが普通だ。これをみる度に、母は母に相応しくない人をまた見捨てたのだと安心する。
彼女は所謂シングルマザーだ。そして俺はその息子。
途中
誰かのためにいきること
年々重みの減っていく1年を今年もまた始めたらしい。未来のことを考えたことがなかった日々が羨ましい。今を見ずに過去と未来を行ったり来たり。
1年後の自分がどうなっているかだなんて、そんなことを考える時点できっと何も変わっていないんだろう
逃避行
君のことが嫌いだよ、というと君は「残念だね」と言った。僕は僕を嫌う人を愛せるほど器用じゃないから、と。
ああ、そんな君が好きだ。俺は愚かだから君の大きな愛というものに包容されるだけでは物足りなくて、家の事情で此処を去るということを知ってから君の記憶に残ろうと最後の足掻きをした。別れる男に花の名前を教えろ、というのは的を射た表現なのだろう。俺の場合は付き合えてすらないのだけれど。君のことを嫌う人がいる度に俺が、俺みたいな奴がいたことを思い出して欲しい、という願いは叶いそうにもない。
love you/情けない
サヨナラだけが人生だ、なんて上手く言ったものだ。君と俺との別れも普遍的でただ、人間だからと説明がついてしまう。こんな自分の記憶の何処からか分からない文を持ち出すのは、ただ自分に言い聞かせたいからだけなのかもしれない。けれど君のいない1日に条理だから仕方がないと諦めるのは何だか恰好が悪いでしょう?
今日にさよなら/あいにいくよ
井伏鱒二/勧酒/訳引用