カレンダー
3/2×
3/3×
3/10教科書販売×
3/13先輩と遊ぶ×
3/24×
4/9臨時登校×
5/13臨時登校
5/14×
5/20臨時登校
スケジュールに並ぶ×印。
5/31、今日も僕はスケジュールに×を書き込んだ。
見返せばもうスケジュールには3ヵ月も×が並んでいる。
6/1(×)
6/2(×)
6/8(×)
6/11(×)
今日は誕生日、でも、友達とは会えない。
最後にみんなで顔を合わせたのは、2月の最終日だ。元気にしてるかな。
明日、明日の分割授業さえ乗り越えたら....。
分割は今週で終わりだ。
部活も活動再開だ、行けばきっとみんなに会えるだろう。
来週に光を見ながら、僕は布団に入った。
職員会議で、3年生が全員部活動を強制引退させる話が出てるなんて、知らなかった。
蒸し暑い。
こんなに暑いのに、始業式すらしていないなんて、信じられない。
そもそも修了式もしていないから、始業式自体あるわけないが。
意識を手放す前に、ふと女の子の後ろ姿を思い出した。
あいつ、元気にしてるかな。
華奢なあの子は、分割授業のグループが違ったから、あの日、国からの登校禁止が指示された日から見ていない。
あいつの事だ、なんだかんだでのほほんと顔を見せるんだろう。
だが、顔の半分しか見られないのは残念だ。
「まぁ、近いうちにマスクとれるようになるだろ、その時は....」
その時は、あいつの笑顔を遠目に眺めよう。
そんな、楽観的な言葉と共に僕は眠りについた。
開いた窓から風が吹き込み、カレンダーが膨らみ、最後のページが見えた。
×→登校禁止
(×)→分割授業
コロナなんて、なくなっちまえ!
喪失
「はい、チーズ」
下駄箱を整理していると、離れた所からそんな声が聞こえた。
みんな学校の至る所で最後の制服姿を写真に収めている。
楽しそうな目元をする彼らを横目に隣のロッカーを少し見つめて、帰路についた。彼女の目は少し悲しそうだった。
家に着いた彼女は今日もらった卒業アルバムを開いた。
「この子、こんな顔だったんだ。」
「笑う時こんなに風に笑うんだ。」
1人1人の顔写真を見つめては、呟いた。
彼女の目は、ピタリと止まった。
「....もう1回、見たかったな。」
彼女が優しく触れたのは1人の男の子の写真だった。男の子は写真の中で弾けるような笑顔をして、まるで向日葵のようだった。
しばらく見つめた彼女は、棚からもう1冊卒業アルバムを取り出した。
数ページめくると、また彼女は手を止めて写真を見つめた。違う制服を着た、少し幼い顔の少年は、向日葵のような笑顔でこちらを見ていた。
どれほどその2枚の写真を見てたのだろうか、彼女は今日もらった卒業アルバムを閉じ、棚の奥にしまった。
まるで、もう二度と見る気はないようだった。
再び、少年の写真を見た彼女の瞳からは、大粒の雫が溢れた。
「かわいく、なりたい。」
少し声がかすれ、少年の写真を指でなぞった。
「成人式で会う時、後悔するくらい美人になってやるからな。」
挑戦的な台詞と対称的に、雫は更に溢れた。
しかし、写真が濡れる心配はいらなかった。生まれたばかりの雫はすぐに消えていった。
彼女の顔を覆う白い布が、全てを吸い取り跡を残させなかった。
そして、棚にしまわれた卒業アルバムがこちらを見つめていた。
彼女が見なかった先の写真は、白い布が少年少女たちの顔を覆っていた。