『突然の君の訪問。』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
ポストを開けると
昔々の友達から
手紙が届いていた
何年ぶり?
十年以上?
声を聞きたいね
逢いたいね
突然届いた手紙
君が訪れてくれたようで
心まで
昔々のあの頃に
戻っていく
懐かしさに
心も踊っているような
ふわふわな気持ちになったよ
いきなり来るのは困るよ、と言いながらも、
君の顔を見ると、それ以上何も言えなくなるんだ。
「突然の君の訪問。」
カタルシス
突然の君の訪問に
救われたんだ
真っ白な空間が
何も見えなかった全てが
君によって
全て見えるようになったんだ。
ありがとう
#2#君の訪問に
「えへへ、ごめんね?来ちゃった」
「え、あ、ーっと、約束、してないよね?」
「うん。してないよ?」
彼女をあげるべきか否か。悩んでいると彼女が笑顔で指を指す。
「それ、なぁに?」
それは女物のパンプスです、なんて正直に答えたら答えたで怒られるの目に見えてんだよね。あー、もうめんどくせ。どうすっかな。
「やっぱり浮気してた…!」
「とりあえず中入って。ここで騒がれんのちょっと…」
「ふーん?入れてくれるんだ?」
ガチャンと鍵をかけると、彼女が奥の部屋に向かって言う。
「こんばんはー!浮気相手さーん!本命の彼女でーす!」
夜も遅いしご近所迷惑になるような事しないで欲しいんだけどなぁ。ズカズカ部屋に入っていくものの、浮気相手さんとやらは見つからない。クローゼットの中にもベッドの中にもお目当ては見つからない。バスルームのドアに伸びる手をそっと押さえる。
「ここなんだ?」
睨むようにバスルームと俺を交互に見る。
「何で?浮気相手庇うの?」
「庇うとかじゃないけどさ、いいじゃん。俺が1番好きなのは優しくて可愛い君だよ?」
「…やだ。誤魔化されないもん!」
私知ってるんだからね、随分前からこそこそ誰かと連絡取ってるの、デート断って誰かと会ってるの、スマホで何か見て嬉しそうなの浮気相手の写真なんでしょ、私全部知ってるんだから!そう言いながら彼女はドアを開けてしまった。
「え…?」
そこに居たのは浮気相手なんかじゃない。アプリで知り合っただけの、本名も知らない女───だったもの。
「う、そ、なん、し、しんで、る…?」
死にたてホヤホヤよ?今からバラそうって時に君が来ちゃうからさ?
「浮気じゃなかったでしょ?」
みるみる青ざめていく君に口角が上がってゆく。知ってたって言ってたじゃん。まぁ?随分前からこそこそしてたというより、l君と会う前からずーっとこうしてたんだけどね?証拠は残しちゃいけないって分かってるけど、コレクションだから、やっぱり撮っときたいじゃんね?
「っ…」
あぁ、叫ぶなこりゃ。反射的に彼女の首に手をかける。恐怖と絶望で何とも言えない顔をした彼女と見つめ合う。優しくて可愛い君が、いいよいいよって許してくれてたらこんな事しなかったんだけど。まぁこれはこれでありだけど。
「変に浮気とか疑わなきゃ良かったのにねぇ?」
残念。アドバイスはもう聞こえていないらしい。
満員電車の中、欠伸を噛み殺す。一晩にふたりはキツいなぁ。おかげで寝不足だ。
「あ」
スマホから彼女の連絡先を消す。もう必要ないもんね。でもお陰さまでコレクションが増えた事だけは感謝してるよ。ありがとね。そうだ。次は優しくて可愛くて、ちょうどお馬鹿な子を彼女にしよう。
『突然の君の訪問。』
「突然の君の訪問。」
ピーン ポーンとインターフォンが鳴った。
ガチャ
開けてみるとそこには君がいた。
君はいつも突然くるんだ。
社会人になりたての頃、私は真面目な社会人として
貴重な休みは真面目に休むことにしていた。
もうじきお昼だなとやっとこさ起きて、わちゃわちゃ始めた時
突然玄関のピンポンが鳴った。誰だろ?聞いてないが。
…宗教の勧誘だった。
だが、顔を見た瞬間に知ってる顔だったことに気づく。
小学校の同級生で5、6年生の時クラスが同じだった。
あきらかに相手からも動揺が伝わってきたが
社会人のマナーとして気づかない振りをした。
宗教の勧誘って、遮二無二勧めてくるもんだと思ったけれど
うわずった調子で早々に帰って行った。
勧誘に回る先って決められないのかな。
それ以来、訪問予定のないピンポンで
扉を開けることはなくなった。もう会うこともないだろう。
ガチャガチャ
君は突然、僕の部屋に来た。
合鍵は渡して合ったし、別に好きに使っていいよと言ってある。
でも、急に。
僕は、珍しく平日休みだったので、出迎えると。
「あ、いたの」
と、挙動不審な態度。
コーヒーを飲みながらでも、焦点は僕には合わない。
とはいえ、僕もやましい事が無いわけではないので、ドキドキなのだ。
余裕の態度をみせるべく、ベランダで一服する事を告げると、室内に痕跡が残って無いか反芻する。
多分、多分大丈夫だ。
一旦、落ち着いたので部屋に戻ると
「あ、まつげが・・・洗面所貸して」
と、彼女は部屋を出て行った。
僕はその間に部屋を見渡し、確認。
うん、大丈夫。
「よかった、あ、あと会社から電話だからゴメン行くね」
残りのコーヒーを一気飲みすると、彼女は出て行った。
ふーっ。
女の勘は鋭い。
俺が遊んでる時に不意にこういう事があるから恐ろしいんだ。
もう一度、タバコを吸おうとベランダに出る。
でも、
でも、あいつは何しに、家に来た?
本当に女の勘?
そういや、僕は出張で家を空けてる時があったな。
あいつ・・・
この家で・・・
お題 突然の君の訪問
ピンポン ピンポーン ピンドン チリリリ ジー
インターホンの音って色々ある
それは君が訪れたことを知らせる音
ピンポーン あっ 誰か来た はーい!
突然の君の訪問。
突然君が訪問してくるから何事かと思ったよ。君は基本、僕の家に来るときは連絡をいれるだろう? もしくは、学校帰りに僕が寄ってく? って、誘うかだ。いや、悪いとは思ってはいないさ。驚いてはいるけれどね。
再々言うけど、君はのっぴきならない理由がない限り連絡もなしに突然来るなんてことをする人ではないと僕は思っている。
君はきちんと確認をとる男だ。そして、きちんと自分の考えを伝えてくる男だ。
本を返したいから、庭先の梅がみたいから、僕と話がしたいから。君はそう言ってからお前の家に行っていいか? と聞くだろう。今までそうやって確認をとってから家に来ていた。君の行動は確認という手順を最初にいれてくる。これは僕と君が出会って二年以上経った中で得た君に関するものだ。これは間違いないと僕は断言できる。
では、どうして今君は何も連絡なしに突然家にやって来たか。そこがわからない。
あ、いや、答え合わせはあとでいい。まず、僕の見解を聞いてほしいんだ。
それで、考えられるものはそうだな……サプライズ、僕を驚かせたかったとか有り得そうだな。というか、今日は僕の誕生日だ。去年祝ってくれたから覚えているだろう。そして君のことだ。僕に最高のプレゼントを渡そうと考えてくれたんだろう? だって僕の誕生日だからね。
それで、僕は意外なものとか面白いものが好きだ。君もそれは良く知っている。だから意外と思えるものをプレゼントにしようと思った。そして僕が意外だと面白がってくれそうなものはなんなのか考えた。そこででた案の一つがサプライズだ。
変なところで不器用で、真面目な君の事だ。月並みではあるが有効だと思ったんだろう。なんといってもサプライズをやりそうにない男がサプライズをしようっていうんだからな。意外だと思ってもらえるとか思ったんじゃないか? 実際、僕が君の家に来たとき、すごく驚いたんだ。僕が寄越した連絡に返事がつかない。おかしい。今どこにいるんだろう。今日は特に予定がないはずだと言っていたのに、かれこれ数時間もメッセージを見ることもしていないっぽいのはどういうことだろう。そう思いながら部屋の窓の外を眺めていたんだ。
そこに、君が来た。君は、大急ぎで走って僕の家の玄関に飛び込んできた。弾丸って、こういうことを言うんだなと僕は感心したよ。それくらいまで早かったんだ君は。
まあ、話しを戻して。
そう。君は、これを見越して僕のもとへ来たんだよね。驚いてくれるはずだと君が連絡なしに来るのは珍しい何かあったのかとそう聞いてくるに違いないだろうと思っていたんだろう。うん、正解だ。僕はほんとうに驚いた。そして今はワクワクしている。
いったいこれからどんなプレゼントを渡されるのかをね。ほら、後ろに隠し持っているんだろう? 僕に近づかないのも見つかったら楽しくないからだもんな。うんうん。きっとそうに違いない。
さあショーゴくん。僕は君の奇行の理由を考えてみたぞ。答え合わせといこうじゃないか!
……何? 誕生日を覚えていなかった。そもそも今日は何日なのかわからなかった。おいおいどういう事だい? 僕の誕生日を忘れてしまうとか、君、らしくないよ。だったらどうして君はここにいるんだい?
ふむ。何? ただ会いたくなった? それだけ? ……僕が好きな曲が流れていていてもたってもいられなくなって、ねえ。ほんとうにそれだけなのかい? ほら、もっとこう、あるだろう? そんな思春期特有の衝動とかそんなものではなくてさ、君が考えた思考みたいなものが。
……ほんとうにない? 嘘だろ。じゃあほんとうに理由なく会いたかったから訪問しただけ? え、っっと……君、そんな人じゃなかったよね? 熱でもあるんじゃない?
「突然の君の訪問。」
いやいや、ちょっと待って欲しい
急にくるなんてさ、失礼じゃない?
え?なんか隠してるのかって?
やましいことがあるのか?
ないない、いや、ちょっと!
勝手に入らないでよ!ちょっと!
中学生の頃は死を考えていざそこに立って見下ろすと怖かったです。
これで飛んだら私の人生はここまでで終了で、大好きな漫画を読むことも出来ないし話すこともできない。
そうやって考えて死ぬのをまだ辞めていました。
けどもう怖くはありません。
むしろ死ねたら好都合でしかない。
こんな事を書いてる自分が恥ずかしい
突然キミが訪問してきた。
「泊めてくれ」なんていきなり言われて、ボクは少し戸惑う。
だけど、ボクはキミのそのお願いに弱いから、結局泊めちゃうんだけどね。
ある日の昼下がり、君が突然訪ねてきた。
ベランダで鉢植えの剪定をしているとき、突然声をかけられた私は飛び上がりそうになった。
「ソラチャン。ゴハン!」
慌てて振り返ると、ベランダの手すりに君がいた。
空色の羽が可愛らしいセキセイインコだ。随分と人慣れしている上に喋っている。迷子鳥だろうか。
「…どうしたの?迷子になっちゃったの?」
言いながらそっと手を差し出すと、彼(彼女?)はちょこんと手に乗ってきた。
飼育されている鳥にとって、外の世界は非常に危険だと聞いたことがあった。
手から降りようとしないので、部屋に連れていく。
ネットで調べながら即席のシェルターを用意すると、警察と愛護センターに迷い鳥を保護していることを伝える。
また、SNSで迷い鳥を保護していることを発信する。
あとは飼い主さんがこの情報を見つけてくれることを祈りながら待つしかない。
小鳥の飼育経験がない私は、とりあえず動物病院に彼(彼女?)を連れていく。
健康状態を診てもらい、一時的な飼育に必要な道具や方法を聞く。
ケージにいれるとフードを食べてくれたので一安心する。
君が来てから、私の生活に彩りが添えられた。
ソラちゃん(最初に名乗っていたのでそう呼ぶことにした)がいる空間は、とても温かく感じられた。
一方で飼い主さんはどれだけ心配しているだろう。早くお迎えが来るといいな。
君と一緒の生活を幸せに感じる一方で、君が本当の家に帰れることを願っていた。
ある日、警察から電話があった。君の飼い主と思われる人が現れたらしい。
私は君を移動用のケージにいれて指定された交番へ向かった。交番の中では同い年くらいの女性が座っている。
女性は私に気づくと駆け寄ってきた。ケージに被せていた布を取ると「ソラちゃん!」と叫ぶと泣き崩れてしまった。君はしきりにケージの扉を開けようとしている。
間違いなく、君の本当の家族だ。
女性は何度も何度もお礼を言うと、君と一緒に帰っていった。
家に帰ると、とても静かに感じられた。
君のケージは空っぽだ。
君が本当の家族の元に帰れたことを喜ぶ一方で、君がいないことが無性に寂しかった。
後日、飼い主の女性が菓子折りを持って訪ねてきてくれた。
女性は丁寧にお礼を言うと、写真を私にくれた。
写真の中では、君がこちらを向いて首を傾げている。
もらった写真は写真立てにいれて、ケージを置いていた場所に飾っている。
君の幸せそうな姿は、いつも私を勇気づけてくれる。
「じゃん!来たよ!」
「……何時だと思ってんだてめぇは」
陽が昇る前の時間帯。外はまだ静まりかえっている中、何度も何度もインターホンが鳴らされ何事かと思った。ベッドから起き上がり覚醒しきってないままの頭でモニターを覗く。こんなことするのはどうせ。
「……どちら様ですか」
「ひどぉーい!いいから早く開けてよ!」
放っておくと隣近所からクレームを受けかねないので仕方なく解錠してやる。メインエントランスが開き、小走りでこの部屋に走ってくる姿がカメラに映っている。
「おじゃましまーす!」
テンションに差がありすぎて軽く頭痛を覚えた。相変わらず広いねだとか良いながら平然とソファに座る相手を無視してシンクへと向かう。
「あぁ、だめだめ、私がやるよ?」
「……あ?」
「朝ごはん。私が作ってあげる」
「俺は別にそんなもの望んでいない」
ただ水が飲みたかっただけ。大体、こんな夜と朝の狭間みたいな時間帯なのに何が朝ご飯だと言うんだ。コイツの体内時計はどんだけ狂ってやがるんだ。
「いーからいーから。パン派?ご飯派?パンならねぇ、コンビニで色々買ってきたよ」
そして何やら持ち込んできたビニール袋の中身を広げだした。見たこともない形をしたものや、ほぼチョコの塊のようなもの。殆どがいわゆる菓子パンというものだ。
「おい。いい加減言え」
「なにが?」
「何の目的でこんな時間に押しかけてきたのかって聞いてんだよ」
朝ご飯を作りにだなんてふざけた理由じゃないのは分かっている。俺が睨みつけると観念したのか笑顔が消えた。そして、何をするかと思えば買ってきた1つのパンの袋を破り目の前で食べ始めた。
「あのな、俺は別にお前がここに来たことを攻めてるわけじゃねぇんだよ。何の連絡もなしにいきなり来て――」
「いきなり来ちゃいけないの?」
そう言ってこっちに顔を向けてくる。口の周りにチョコがついている。
「いきなり、会いたくなったから……いきなり来たの」
「バーカ」
だったら最初からそう言えよ。会いたいとでも言えばこっちから迎えに行ってやったのに。けれど、コイツなりに我慢をしていたんだろうと思うともうこれ以上咎める気にはならなかった。
「お前が食べているそれは何なんだ?」
「え?これ?これはね、チョココロネっていうんだよ。食べる?」
「そうだな」
だが、差し出された食べかけを受け取ることはせず、代わりにその華奢な手を引き寄せる。無防備なそのチョコ付きの唇にキスをした。
「……なにすんの」
「甘い」
「当たり前だよ。チョコだもん」
瞳を潤ませそのまま勢いよく抱きついてきた。ちょうど窓の外で朝日が顔を出したところだった。こんな早朝も悪くない。
p.m.11:30.
真夜中に響くインターホン。
ドアノブに触れる前に吸い込んだ息の中に
含まれる透明な緊張感。
今、誰からどんな一撃を喰らっても
私はもう期待してしまっている。
突然の君の訪問。
「突然何かと思ったら、また来たの?」
そう言ったのは何度目だろう。彼は疲れきったような、それでいて安心したような顔をしていた。
「どうしても、また会いたくて」
「辞めてって言ったわよね?」
「……うん」
彼は罰が悪そうにくまの酷い目を伏せた。別れたのは随分と前なのだからいい加減に私のことは忘れて欲しい。私が居なくなったその後は幸せになってくださいって言ったはずなのに。
「貴方には良い人がいたでしょう。その人はどうしたの?」
「あいつは俺の事を支えてくれたけど…でも、やっぱりお前じゃなきゃダメなんだって思い直したんだ」
「だから来たのね。それがどれだけ人に迷惑をかけるか分かってるの?」
貴方…………
随分と我儘な人なのね。
彼は私の鋭い言葉を受けてもなお動かなかった。悲壮な顔で、それでも強さを見せている顔。弱々しい姿しか見ていなかったから、今回ばかりは本気なのもしれないとふと思ってしまった。
「えぇ、確かに。私にとっても貴方が特別。ずっと貴方のことを見守っていたもの。
だから、だからこそ、私のことは忘れて欲しいの。貴方を連れてはいけないわ」
私は死んだの。
良い?私は貴方を連れて逝かない。貴方は生者で、私は死者。元の世界へ戻りなさい。もう会うこともありません。
「………」
元の世界へ帰りなさい。大丈夫よ、貴方のことはずっと見守っているから。
愛しているわ。
唖然
それは突然
触れたままのドアノブ
白いままのお前の肌
蝉の奇声に紛れて
何を言った?
なぁ
ふざけないで
なぁ
帰らないで
なぁ
電話越しの親友の訃報に
昨日を悔やんだ
突然の君の訪問
母から貰った小さな小さなレモンの木
安定感のある鉢の上
まるで私と母のよう
とある夏の日
会いに来てくれたんだね
アゲハチョウ
#突然の君の訪問
「波の音を聞かない?」
君は突然やって来て、スマホを翳してそう笑った。
ふたりソファに肩を寄せて座り、君は俯いてYouTubeの画面を開く。君の手のひらで流れる、きれいな海と波の音。君は画面を見つめたまま、俺にもたれかかる。最初はほんの少し、そのうちからだ全部を俺に預けるように。
繰り返す、ただ繰り返すだけの波。
終わらず、繰り返す繰り返す。
「すごくね、良いんだって。波の音。マイナスイオン」
「眠くなる」
「うん、眠くなる」
君が顔を上げてふっと笑い、俺はそれに安堵する。
君がここにいることに。
画面越しでは感じられない、確かな存在感。
なぁ、会うの久しぶりだろ。
なのにほとんど話さず、共に波の音だけを聞く。この静かな時間が今君のいる世界。
うちにいた間、笑ったのは君が言ったこのことだけだった。
「ね、切れないのが良いよね。落ち着く」
「なにが切れない?」
「YouTubeだよ、プレミアムに加入してんの。してないの? 便利だよ」
「……してるわー!」
突然の君の訪問
司馬仲達にとって仕官とは馬鹿のすることであり、天才たるこの身が宦官の孫ごときに頭を下げるつもりなど毛頭なかった。
君子危うきに近寄らず。
戦乱長引き漢の威信も地に落ちたこの乱世、司馬仲達のような文化人はただ野に在ってその様を眺めているくらいがちょうど良かった。
司馬仲達にとっては曹孟徳などどうでも良い存在であったが、しかし彼処はそうではなかったようだ。
人材を集めることに執念を燃やすあの小男は、司馬仲達にいたく執心していた。
一度目は書簡を携えた文官が仕官を要請してきた。書簡には曹孟徳直筆の署名もあった。
くだらん乱世に態々巻き込まれる必要も無い。仲達は丁重にお断りした。
二度目は曹孟徳が来た。ここで初めて仲達は曹孟徳を見た。なるほど、噂にたがわぬ小男だ。
才ある者は才ある者を見抜く。仲達は曹孟徳のその才を認めざるを得なかった。が、乱世をおさめることは出来まい、とも予見した。乱世の奸雄とはどこぞの易者が言ったのだったか、よく言ったものだ。天下を取れる者であれば奸雄に留まることは無い。だが、曹孟徳は奸雄だった。
仲達は先の見えた男に仕官する気はない。
三度目は軍勢が来た。曹孟徳が言う。「貴様が頷かなければ族滅させる」と。
なんの罪あって俺を殺すか、と仲達が問えば、曰く「天より授かりし才を野に在って無為に費やすことが貴様の大罪だ」と。
仲達とて命は惜しい。節を屈して曹家の軍門に下った。
だが、心服せずして仕官したこの司馬仲達を曹孟徳は信用出来なかったらしい。手に入れるまではあれほど執着したにも拘わらず、結局重用することなく我が身から遠ざけた。
天下の鬼才が己を恨んで策を弄じることを恐れたのである。
飼い殺しとも言うべき日々に、司馬仲達は鬱屈したような表情を浮かべていた。これで、野にあるのとどう違うものか、と。
突然の君の訪問はその頃だった。
君──曹子桓は曹孟徳の子の一人であった。仲達の炯眼を以て見れば、子桓の才は父孟徳の才に比べることも出来ぬ凡才であった。まだ、子桓の弟の子建の方が才気があった。
だが、曹子桓、君は凡才であるが故に人並みの気配りがよく出来た。才ある司馬仲達、曹孟徳、曹子建にはこれがなかった。才ある者は自力で難を超える力があったから、他人の災いに鈍感であった。
不遇をかこつ仲達を前に、子桓は尋ねた。不自由はないか、望みはないか、と。
曹子桓は父が見い出したこの鬼才の不遇がたまらなかったのである。
曹子桓はよくよく仲達の世話を焼き、次第に仲達も子桓に心を許すようになった。
ある日、こんな会話をした。
「子桓よ。貴様は孟徳の跡を継ぐ気はあるか?」
「無論だ」
「良いだろう。だが、子建の方が才気はあるな」
「……仲達までそんなことを言うのか」
「拗ねるな、事実だ。それに、所詮子建と言えども俺からすれば凡才の域を出ん」
「……子建をダシに、俺まで凡才と言い切ったな」
「違うか?」
「意地の悪いやつだ」
「凡才同士で跡目を争うのだ。なら、子桓は勝ったも同然だな」
「……お前がつくからか?」
「俺がつくからだ。……代わりに、貴様が死んだらこの天下は俺が貰うぞ」
「───呵呵、良いだろう。俺が死んだら仲達、貴様が好きに天下を獲ればいい」
曹孟徳の死後、曹子桓は権謀術数を用いて跡目争いを制し、更には絶命寸前の漢を滅ぼして魏帝となる。
また、その子桓の死から暫くして、司馬仲達はこの日の約束通り天下を牛耳ることとなった。