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「波の音を聞かない?」

君は突然やって来て、スマホを翳してそう笑った。
ふたりソファに肩を寄せて座り、君は俯いてYouTubeの画面を開く。君の手のひらで流れる、きれいな海と波の音。君は画面を見つめたまま、俺にもたれかかる。最初はほんの少し、そのうちからだ全部を俺に預けるように。

繰り返す、ただ繰り返すだけの波。
終わらず、繰り返す繰り返す。

「すごくね、良いんだって。波の音。マイナスイオン」
「眠くなる」
「うん、眠くなる」

君が顔を上げてふっと笑い、俺はそれに安堵する。
君がここにいることに。
画面越しでは感じられない、確かな存在感。
なぁ、会うの久しぶりだろ。
なのにほとんど話さず、共に波の音だけを聞く。この静かな時間が今君のいる世界。

うちにいた間、笑ったのは君が言ったこのことだけだった。

「ね、切れないのが良いよね。落ち着く」
「なにが切れない?」
「YouTubeだよ、プレミアムに加入してんの。してないの? 便利だよ」
「……してるわー!」




突然の君の訪問






8/29/2023, 1:40:33 AM