『手を繋いで』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
死んでも楽にならない、
死んでしまったという後悔の念が、増えるだけ。
繋いだ手は、離さないよ。
手を繋いで
並木道を歩こう
ギュッとして
はなさない
優しいって誰かには優しくないみたい
他人に優しくするとちょっと自分が疲れちゃったり、
他人を気遣ってしまうあまりに本当に大切にしなくてはいけないものを傷つけていた。
自分が持っている優しさは大切な人を傷つけてしまう。
何百年前に出逢ったと言っても
君は信じないだろうけど
酔って言ったわけじゃないよ
勢いでもないよ
遊び呆けてる僕が言うのはなんだけど
君の相手はただ1人僕が良くて
好きって言葉を求めてるの?
そんなに名前を呼ぶのは
意外と単純な僕は勘違いして
月明かりの魔法が解けちゃったら
もう僕に興味に無いの?
澄ました顔した君は出ていく
どんな顔の君も好きだなんて
街中どんなものが似合うか
君と居たらどんなだろうって
女々しいなんて言わないでいて
ただ君のそばに僕が居たいだけ
積もり積もっていくこの恋に
僕の20年が全く役に立たないのはなんでだろう
息が上がって 僕の心も最高潮になるのに
君はなにを考えてるの
これが制裁ならもうちょっとまって
死んだあとにでも揉みくちゃにしていいから
せめて今だけ
その手を離された
繋いでると思ってたのに
でもこれは
新たな手と繋がる前触れかも
終わんないと始まんないからね
#手を繋いで
手を繋いで
寒い朝
指先をチクチクと蝕む冬の朝特有の寒さ
ぬくもりを求めてカイロを握る
どうせなら貴方と手を繋ぎたい
その、長く太い指と私の指を交差させ
寒い冬を
「さむいね。」
と笑って歩きたい
どうせなら貴方と手を繋ぎたい
その、がっしりとした手を私のひょろりとした手を合わせて
当たり前のように並んで歩きたい
ねぇ、手を繋いでよ
心のなかでそっと呟く
寒い朝の一人の冬のこと。
お題︰手を繋いで
たばこ吸って指先ダンス
お酒飲んでおめめキラキラ
紙と缶と手を繋いでジャンピング
こうふくまでせーのでダイブ
手を繋いで
空を見上げてごらん
無数にある星空の下
この星に生まれ
出会えた奇跡
感謝をしなくちゃな
#手を繋いで
手を繋ぐと安心する
今までの後悔も
これからの不安も
手を繋ぐと貴方の温もりで
不安も後悔も全てが消え去り
その代わりに2人の笑顔と
未来へのちょっとした希望が残る
いとかこの手で君をまもりとおもるたっだのわがままとおもるけど自分は
、君と一緒にさんぽしたりお話したり人気カフェでショートけーき一緒食べたりかえりに一緒に綺麗な夕日を観て君は、(綺麗な夕日だね)とそういうだよ
『手を繋いで』2023.12.09
「息子の手がちょっとでっかくなっててなぁ」
嬉しそうに話す長身の彼は、そのハンサムな顔に笑顔を浮かべている。
「ママが良いっていうときもあんだけど、俺といるときは手を繋いでくれるんだよ。それがまた、なまら可愛いんだわ」
彼はそれをツマミに美味そうに酒を飲む。実に彼らしい。子煩悩で愛妻家。大きな子どもだと揶揄されているが、こと家庭のこととなる頼もしくなる。
「子どもがでっかくなるのは早いなぁ」
エヘエヘとだらしなく見える笑顔も、見ていると微笑ましいきもちになってくる。羨ましいかぎりだ。
「両親に手を繋いでもらったことなんて記憶にないなぁ」
返事が欲しかったわけではない呟き。すると彼は嬉しそうだった顔をくしゃっと悲し気にゆがめて、こちらの手を握ってきた。
「俺が手を繋いでやっからな!」
「あー、はいはい」
彼に限らず他の仲間たちは、こちらの幼少期の事情というやつを知っている。変に気を遣ってこないので楽だが、たまにこうして構い倒してくる。
嬉しくないわけではないが、どういう対応していいか分からないので困ってしまう。
ただ、不快ではない。
不快ではないが、このままだと手を繋がれるどころか、ハグもされかねないので、適当にあしらうことにした。
別に照れているわけではない。断じて。
君の掌の温かさが
心の芯まで届いて
ボクの頬は
呆れるほど
緩みっぱなし
幸せ気分
八分咲き
# 手を繋いで (345)
例えば、私の横にいる友達にだけ向けられた「かわいい」を聞いた時。
例えば、クラスで自由にグループを作ると、余り物になる時。
例えば、親すらも誕生日を祝ってくれない時。
風船が萎むように、心が萎んでいった。
もしかしたら、私が周りの人間を不幸にしているのではないか、だから誰にも愛されないのではないかと考えてしまう。
その人たちの物語の中で、私はその人の引き立て役としてだけ存在しているのだろうか。
右も左も分からなくなった状態で、力の抜けた体を無理やり明日へ投げる。
革手袋を外した手に触れるたび、その生々しい体温に内心驚いてしまう。彼から感じる人間らしさとアンバランスで、少しかさついた節の目立つ指も含め、精巧な人形に本物の人間の手がついているかのような違和感を覚える。
ぐっと手を引かれて躓きそうになり、顔を見上げると薄く笑っていた。無言のお叱りに心にもない謝罪を呟きつつ体を寄せ、手のひらを擦り合わせながら指を絡める。満足そうに甲をくすぐられたので爪を軽く立ててやった。
思えば手を繋いだことなんて今まであっただろうか。手首を引かれたり革手袋越しに握ることはあっても、こうして直に手のひらを合わせるというのは初めてかもしれない。この手に触れられたことは幾度となくあるのに、手を繋ぐなんて恋人じみた行為はしたことがなかった。
互いを縛る権利など私たちには不必要だと思っていたが、どこか楽しそうな横顔を見るに、どうやらあってもいいものらしい。ほんの少しだけ握る手に力を込めた。
『手を繋いで』
【手を繋いで】2023/12/09
手を繋いで、手を取り合って。
手と手を合わせるという意味で、動きとしては同じだが意味合いが全く違う。
今自分のそれがどちらに該当するかは分からなかった。
描く未来が同じならきっとそれはどちらでもいいのだと、一旦の思考をそこで停止した。
今はただ、行く末を見守って。
手を繋いで
少しの溢れ出た不安を、あなたのぬくもりが、
大丈夫にしてくれる。
今夜もビル達が暗い街の夜空を照らす。
深夜だと言うのに鳴り止まない車のエンジン音と風の冷たい音。
「死ィねェェ!!!」
規則的な音達の中にある汚い騒音。
ズシンというコンクリートの道に穴を空けた、重たい音が男の怒声と共に夜の東京の街に響く。
ヒーローはどうやって現れるのか。高層ビルで残業中の会社員はパソコンから目を離し、窓の外のヴィランを見下ろした。
暴れ回るヴィランに少し呆れつつ自分の作業に戻ろうとした、その瞬間、会社員の目の前に何が通った。
自分よりも一回り大きいその何かは会社員が見ていたガラス窓を思い切り蹴って下に落ちていった。いや、降りていったの方が正解かもしれない。
会社員がいるのは47階。窓の外に誰かがいたのか。そんなはずは無い。
慌てて窓にへばりつく会社員を周りの同僚らはおかしな目で見るが、今彼に周りを気にしている余裕はない。
先程自分の目の前を通った何かはまだビルの壁と並行に落下し続ける。周りより目のいい会社員はその何かが人間だと気づく。
少しくたびれたコスチュームに身を包むそれは、まさしくヒーロー。ヒーローの落下先にはヴィラン。
会社員は間近で見るヒーローのヴィラン退治に興奮が隠せない。
あと少しでヴィランに届く。手を伸ばす。
ヒーローはヴィランの頭を勢いよく両手で掴みそのままバク宙。一気に持ち上がる大きなヴィランは何が起こったか全くわからないような間抜けな顔で宙を舞う。
着地も出来ず背中を打ち付け気絶したヴィランをクッションにヒーローも静かに着地。
会社員が見た、訳25秒間のヴィラン退治はとあるヒーローの日常。
この日のあの一撃はただの投げ技だったのか。いいや違う。
彼は猛毒ヒーロー。
誰も彼には触れない触れられない。
なんてったて彼は、
極度のあがり症だから。
とある平日、イレイザーヘットこと相澤消太はいつになく良い朝を迎えることができ少し気分が明るい。
今日はなんだか上手くいくかもしれない。そんな期待を胸に職場である雄英の校門をくぐり抜ける。
まだ寝ぼけている2月の寒空は相澤の気持ちを少し沈める。
彼には悩みがあった。
「異坂ことさかさんと仲良くしたい」←
職員室に誰もいないのをいいことに相澤は自分の野望をぽつりと放った。
相澤の言う異坂さんとはこの学校の理科教師であり世間のヒーローである、異坂義のことを指す。相澤の一歳歳下の後輩で、お世話にもフレンドリーとは言えない人相をしている。
また、人と関わることを完全拒否しており、ここ数年彼の声を聞いたものはいないという。
そんな「仲良くする」ということとは無縁な彼になぜ相澤は固執するのか。今現在は相澤本人もよく分かっていないためなんとも言えないがまぁ、異坂は色々な意味ですごいのである。
合理的な相澤は今日の支度を済ませると寝袋に入った。寝起きの爽快感はどこにいったのか、既に眠そうな死んだ目をしている。
ぼんやり隣の隣の席を見る。「山田がどけば俺が隣なんだけどなぁ」なんて悪態を心の中でつく。
異坂のデスクにはしっかりと蓋をされた液体の入った小瓶と、怪しい粉末の入った袋がいくつか雑に置いてあり、仲良くなる口実の手掛かりすらない。
だって相澤は科学に疎い。
異坂はいつだって一人で自分の仕事を済ませてしまう。教師のこともヒーローとしての活動も。
異坂の隣に立ったところで自分の役目はない。
「憧れの感情は合理性に欠く。」
相澤は寝袋のフードを目深かに被り直し目を閉じた。
隣の隣の彼は近いようで遠いのだ。
とある平日、ベノムパイロットこと異坂義は相澤と同様、いつになく良い朝を迎えることができ少し気分が明るい。
今日はなんだか上手くいくかもしれない。そんな期待を胸に職場である雄英の校門をくぐり抜ける。
まだ寝ぼけている2月の寒空は異坂の気持ちを大いに沈める。
彼にも悩みがあった。
それは自分があがり症なことだ。人前に出るとどうしても緊張して喋れなくなってしまう。
まだ7時半前だから誰もいないだろう。現実逃避をして今日の憂鬱を誤魔化す異坂は、職場である職員室の扉に手を掛けた。
「おはようございます…」
ガラガラとできるだけ音を立てないようにゆっくりと戸を開け、ぼそりと誰宛でもない挨拶を呟く。
「え、」
明らかに自分のものではない低い声に、心の中では「キェェェェェ」と大奇声を上げる異坂の顔は眉間に皺がより黒いオーラを放っている。
相澤は寝袋から驚きに満ちた顔をひょこっと出した。
「は?ベノムさん…?」
突然数年間聞いていなかった声が聞こえれば誰だってビックリする。しかもその声の主は相澤にとって仲良くする対象の異坂である。これは2人きりで何か話せるチャンスでは?と相澤は捉らえた。
しかしその考えとは裏腹に異坂は緊張で体が強ばり、舌も足も上手く動かせない状態だ。異坂にとってこの一対一の状況はどんな拷問よりも拷問である。あがり症の症状がどんどん悪化していく異坂に逃げることはできない。
もちろん、先に動いたのは相澤だ。
「ベノムさんおはようございます。相変わらず曇った空ですね。」
異坂が人嫌いとしっかり解釈している相澤は、あえて少し笑いかけることで親しみやすさとギャップの両立を成り立たせる。相澤に1ポイント。←
「」
一方、話しかけられたことで何か返さなければとテンパる異坂の頭の中は真っ白である。もちろん相澤の親しみやすさもギャップも考えている余裕はない。
ごちゃごちゃの頭の中に吐き気がしてきた異坂はどんどん顔が強ばり、相澤は動揺する。
「…」
「」
「…」
沈黙は続く。
「good morning!!!」
「おはよう2人とも!!」
扉の前で固まっていた異坂の大きな背中から、ばばーんと効果音のついた登場をした2人。
沈黙を破ったのは今日も元気なマイクとミッドナイトだった。
「さぁパイロット!イレイザー!受験会場にGOだぜ!」
異坂は新たな人間が増えたことによりショートしてしまった。
異坂はショートしていたため忘れていたが、今日は年に一度の待ちに待った受験の日。
このヒーロー飽和社会でヒーローとして生き残るのはより質のある強い者のみ。今までに様々な英雄を産んできたここ、雄英高校は全国屈指の人気校なのだ。難易度は高いが。
そんなわけで雄英教師である異坂は受験生達を見定めるべく特別室へ連れてこられたのだ。
「あ、あの、ベノムさん」
相澤は先程のことを謝ろうとするが異坂は自己防衛のつもりか、部屋の隅っこでうだうだしている。
「ねぇ異坂先生ってあんな人だっけ?」
「さぁ…違うと思います。」
画面の前にまっすぐ横になって並ぶイスの一つがギィと音を立てて動く。相澤は部屋の隅にいる異坂をチラリと見た。
今までのイメージをぶち壊す現在の背中を丸めた異坂はなんだか変な感じだ。まぁこれが本当の異坂なのだが。
普段の異坂がでてしまうのは、異坂にとってこの空間が地獄だからだ。ただでさえ苦手な人間がたくさんいる。加えて受験生についてあーだこーだ言われるのは必須。異坂が吐かないのは奇跡。←
ではなく酔い止めのトラべロップのおかげだ。一度に服用数以上に食べるのでこの部屋にはガリガリという音が響いている。ヒーロー達はASMR的な癒しを覚えた。←
今年は中々の豊作。
沢山の受験生が一人一人映し出された画面を見ながら1人の先生が言った。
確かに学生時代の僕よりも優秀な子供達。
炙り出される、情報力。機動力。判断力。戦闘力。
いついかなる時もヒーローは何よりも大切な、人の命というモノに触れる。
その触れ方にもちゃんと決まりはある。
「さっ、そろそろ行くかねぇ」
リカバリーガールが椅子から降りる。
「お退きっっ」←
「ウッ」
ドアの近くにいた僕はリカバリーガールの邪魔をしてしまったらしい。杖で叩かれた。
いつもの温かい表情に少し影を入れたガールは僕に何か言おうとした。
怒られると思って身構えたが手に乗ったゴムのような感触が僕の緊張をほぐす。
「…ハリボーをお食べ!」
体育座りの僕に呆れたようにハリボーを渡すガールに、「あがり症をさっさと治せ」なんて言われたような気がして、僕はガールが出て行った右隣の扉を見上げた。
しょうがないじゃない。こういう性格になっちゃったんだから。僕だってハリボーで治るくらいの短所がよかったよ。
「…。」
両膝の間から見る画面。僕の黒いズボンに縁取られた画面には焦った顔の少年がいる。この子は偉いよ。だって自分の今を変えようとしてる。だから焦ってる。僕とは違うな…。
焦った顔の少年を見ていた僕は何か物欲しそうな顔をしていたのだろうか。
青みがかった光に照らされた校長が、くるりとこちらを向いた。
「やる気スイッチ、押す?」
それは大型のギミックを発動させろという意味だ。答えはノー。
だって嫌だよ!もしもボタンを押し間違えて変な雰囲気になったらどうする!?僕、その空気に耐えられない!しかも何!?校長が話しかけたせいで皆んな「なんでこいつに押させんの?」みたいな顔してこっち見てるよ!←
…でもここで断ったら…?むしろ変な感じになるんじゃない!?やばい!やらなきゃいけないのか!?
僕は静かに頷いた。
ボタンと言うのは、良くも悪くも人の心を揺さぶる。
押すなと言われれば人は必ず押してしまう。ボタンを押せば何かが変わるから。その先の未来を見てみたいと思ってしまう。
人間は安定を求めて彷徨う。食料の安定のために田んぼを作り、安全な住処に住むために家を建てた。小学校で習ったかな。
でも安定だけじゃ飽きるんだ。変わらない生活を変えてみたいと思ってしまうんだ。
このボタンを押せばギミックが発動して会場は変わる。
上手く言い表せないけど、このボタンを押せば何かが変わる。僕は変わりたい。逃げっぱなしの今を変えたい。
変われる保証はないけどやらないよりマシ。このボタンを押すのは校長に言われたからだけど。なんらかのケジメにしたい。
気づけば校長の隣にいて、ボタンを押そうとしていた。
僕の決心をこれにこめる!うぉぉぉぉ!←
ぽちっ←
どさっとヒーロー達が椅子からずり落ちた←
「フゥ」
一仕事終えたので小さく息を吐く。緊張した。でもなんかスッキリしたよ。何故か肘置きにもたれている校長の隣で画面を見上げた。←
逃げる生徒。我先にと走り出す。
この中にヒーローは現れるのか。人々はヒーローを待っている。助けてあげなければ駄目なんだ。
ま、入試だから全然いいけどね。
1人の女子が転ぶ。それを見て1人止まる。
さっきの焦ってた子だ。
その子はまるでジェット機の様に飛び上がり、1人の少女を助けた。
「おぉ…」
「あれ!異坂くんが感嘆するなんて珍しいじゃないか!」
「え!?ウソ、聞いてなかったー!」
優しい人達。優しい言葉。僕は恵まれてるんだろうな。だけど言わせて。
助けてぇえええええええええええええええ!!!!←
試験も全て終わり、空一面の雲が少し青みがかる。そんな、なんとも言えない美しさをこれまた青みがかった廊下の窓から見上げる異坂。
電気がついていない理科室前の廊下をのろのろ歩きながらリカバリーガールがくれた色とりどりのグミを数える。
太陽に透かそうと窓にかざしてみるが既に太陽は見えない。
「む…。」
少し残念そうに唸る異坂は、右手のハリボーを一気に口に入れ、理科室の扉に手を掛けた。よくわからないごちゃっとした風味が口の中に広がる。
不味くも美味くもない味をただモグモグと噛み締める。残念ながら異坂の住処、理科準備室には机がない。彼は理科室特有の黒い机に、分厚いプリント達を置いた。
校長に押し付けられた受験生の答案用紙の丸付け。毎年任され続けるのでもう慣れたものだが。
毎年日本全国の受験者が集う雄英。私立のため合否発表は3日後で、その教師全員は100枚近い答案達を約2日で片付けなくてはならない。いちいち丸をつけている余裕はない。
異坂は余計そうである。先程述べた通り、異坂は校長の採点する分もこなすことになってしまった。個性、ハイスペックの校長が効率が良いだろう、と抵抗はしたが「君が代わりに合格通知PVを作るのかい?」と言われたため断念。あがり症の敵はカメラだ。
まだ大量に残る仕事たちを見てため息をつく。
薬品の匂いが微かに香る理科室にペラペラと紙をめくる音が沈んで行く。時計の針が動く音もないため今が何時なのかもわからない。3時間は経ったろうか。
半分ほど片付いたプリントをカツカツっと机で整えて理科室を後にした。
悲劇はこの後である。
異坂は無駄に大きな正門をくぐり、出口へ向かう。辺りは真っ暗で残業と校長にチョップしたい気持ちが増す。←
「あ、あの!」
背後からの声に内心大泣きの異坂はあり得ない反応速度で振り返る。声の主は受験者の少年だった。
「…」
自分より一回りは小さい少年を見下ろすその顔は本当にそれはあがり症の症状なのかと言えるほど険しかった。が、少年は全く気にしない。ヒーローオタクだからである。
知名度はそこそこの異坂、いや、ベノムパイロットは一部ではかなりの人気がある。ベノムパイロットは強さと格好良さ、主に顔が素晴らしかった。イケメンというやつだ。
彼は夜間に子供が外出していることを心配したのかスッと紙を渡した。
【早く帰りなさい】
「はっはい!」
少年は嬉しそうに帰っていった。
異坂は心の中で叫んでいた。←
今日から始まる新学期。桜は残念ながら散ってしまったがヒーローのつぼみが花開く季節である。
「…。」
異坂はその状況に絶望していた。春休みが終わり生徒たちは学校へ戻る。教師として沢山の生徒、人間の相手をしなくてはならない。春休みに1人静かに毒を調合し楽しんでいた見返りがこれか、と心の中で嘆いていた。
春風が優しい通る廊下をいつもの様にのろのろ歩く。できるだけ入学式に間に合いたくないという気持ちが異坂の長い足にへばりつくいて離さない。
階段をゆっくりと降りていると次第に足音が聞こえてきた。上履きと冷たい廊下がこれでもか、というくらいぶつかり合う威圧的な足音が異坂の背後から聞こえる。異坂は誰かが近づいてくるという恐怖に眉間にしわを寄せた。←
「ベノムパイロット。」
威圧的な足音の彼は、やはり威圧的な声で異坂を読んだ。お忘れだろうか、異坂はベノムパイロットである。
新入生の爆豪勝己か。要領がいい異坂はなんとなく、厄介な生徒が来た…。と緊張する。
緊張で自分より威圧的な表情を見せる異坂が気に食わないのか、普通な威圧感の爆豪は不満そうにジリジリと前に出る。
「…校庭は…、あっちだ(よ)…」
緊張で震える声は、親しみやすさの最後の「よ」を発音しなかった。爆豪は叫ぶ。
「知っとるわ!!!舐めんじゃねぇ!!」
ヒィィィィィ!!と悲鳴をあげる脳内に冷静さを大さじ一杯。異坂の良い顔は恐怖でさらなる険しさを手に入れた。ギロリ、と死んだ目が爆豪の目を捉える。
その険しいことと言ったら爆豪が怯むレベル。爆豪は身の危険を感じたのか舌打ちを盛大にして階段をズカズカと降りていった。
チャイムが鳴る。入学式は始まったが、異坂は若い子の怖さを改めて目の当たりにし、理科準備室へ帰っていった。←
結局、入学式には異坂は来ず、異坂が学校にいること自体知らない新入生が38名。知っているのは先程の爆豪氏と入試後に鉢合わせた少年、緑谷少年のみだ。
つくづく運が悪い男だ。やれやれと首を振りたくなるが放っておこう。
新入生のリストに軽く目を通しスマホの時間を確認する。もうこんな時間か、とでもいう様にぐっと伸びをする。
そーっと理科室のドアを開け、誰もいないことを確認した異坂は、少々猫背気味に白衣をひるがえし昼食を摂りに行った。
もちろん、あがり症の異坂が食堂に行けるわけが無く、ここ数十年彼は校舎裏で細々と適当なコンビニパンを食すのである。
理科準備室で食べようものなら薬品にパン屑が混入し、爆発するかもしれない。そうすれば異坂のあだ名はアフロになりかねないのだ。
アフロ先生か…なんて妄想してる間にホコリだらけの裏口を開けて外に出る。ギィと鈍い音が鳴った。
校舎裏は基本誰も来ない。教師になる前、つまり異坂が学生時代から知っていたことだ。お昼時は食堂が賑わう。こんな古ぼけた何でもない場所は皆、知る前に卒業してしまう。
ちょうど木々に囲まれたここは日中の柔らかい光が静かに揺らめく。その中にぽつりとある小さな倉庫は異坂の秘密基地のようなものだった。
倉庫の中はあまりにもホコリだらけで飯なんか食えたもんじゃない。2mほどの高さの小さな倉庫にピョイっと飛び乗り昼食の時間。
バリバリとビニールを破ってパンを口に押し込む。
高さ2mはなかなかに高所で空が少し近い。飛行機雲を探しながら考える。
次、授業か…。
口に広がるパンの風味など何処へやら。異坂は倉庫から飛び降りダッシュで理科室へ向かった。すっかり忘れていたらしい。
これは猛毒教師なりの日常なのだ。
ざわ…
昼食から戻ってきた緑谷、麗日、飯田の一行はざわついた教室に疑問を抱く。どうやら黒板がどうかしたらしい。
「どうしたんだ?」
飯田がカクカクした手つきで八百万に問う。八百万は頬に手を当てて黒板に視線をやった。
視線の先には丁寧な字で【理科室に】と中途半端な文が書かれていた。「理科室に何なんだよ」と切島がツッコムが答えは分からない。
「理科室に来いってことじゃないの?」
「次、英語だよ?」
よく分からなすぎて逆に怖い。そんなA組にバンッとプレゼントマイクが登場。チャイムが鳴ったはずなのに誰も着席していない現状を不思議に思い、みんなが集まる黒板を見る。
「ヘイヘイ!何してんだYO!」
不可解な動きで上鳴を翻弄しつつも、教卓に教科書やプリントなどを準備するあたり、やはり教師なのだろう。
授業が始まることに気づいた一同は少しほっとし、席に着いた。
「せんせーそれなんなんスカ?」
英語が苦手な上鳴は少しでも授業時間を減らそうと意気込んだ。顎に手を当て、マイクは鼻で笑った。
「こりゃぁ、パイロットの仕業だな!」
上を向きながら黒板を笑い飛ばすマイクに若干引きながらも上鳴は意気込み続ける。
「パイロットって…?」
するとマイクはふざけた様に身震いしてまた笑う。
「パイロットはお前らのSCIENCE TEACER!少々威圧的だがいい奴さ!」
「アレのどこが少々なんだよ。」と呟くお行儀悪し不良少年爆豪と、ひたすら頷くヒーローオタク緑谷はあたかも自分だけが異坂を知っているかの様な優越感に近いものに浸っていた。
そして、そんな2人に気づいたのか、マイクは自分がどれほど異坂を知っているのかマウントを取り始めた。
「パイロットも天然だよな!メモ書く教室間違えてらぁ!お前今日はB組だろ!HAHA!」
間違えてたのかよ!!と叫ぶ上鳴。更にパイロットへの理解が浅くなったA組は更に不安になった。心なしか教室の温度が下がった気がする。
理科室に誰も来ないので心配した異坂が廊下から中を覗いていたのだ。お得意の緊張で顔が強ばりまるで親の仇を見るような目である。
それに気づいたマイクは、廊下からの悪寒にヒッと悲鳴をあげ、授業を開始した。
授業するクラスを間違えていた異坂は「間違えた…」と自己嫌悪の声を絞り出しB組に向かい、どうやって訂正するかを考えるのだった。
ちなみに文が中途半端だったのは書いていた途中で相澤が来たからである。もちろん逃げた。←
ピピピとアラームの音が頭の中に響き目が覚める。質素なベットに肘をつき、のそりと起き上がる。目覚まし片手に今日も痛感する。
「朝が…来てしまった…。」
いつも通りの黒い服。異坂の周りの教師達は皆コスチュームを身に纏っているが異坂は違う。常にタートルネックと長ズボンという地味かつダサい格好だ。それに白衣が決まればかっこいいのだが通勤ラッシュの中白衣は少々目立つ。
既に着替えている異坂の顔に冷たい水。バシャバシャと勢いよく洗うが染み付いたクマが取れることはない。寝癖も。
天気予報もチェックしないで浮かない顔で無言のまま家を出る。エレベーターに乗りながらエアコン消した?だとか、洗濯機回した?だとか急に思い出す。
窮屈な電車に乗り込んでいざ、雄英。ガタガタ揺れる車内に肩を揺さぶられながら景色は走り去っていく。次第に疲れたのか、景色は遅くなり、シュッと扉が開く。
急いで扉から這い出て、階段を降りればもうすぐそこだ。今日は何だかざわついている。
「…」
雄英の門には大量の記者。異坂は二つ手前の電柱から見守る。
カメラとマイクを構える大衆は誰かを待っているのだろう。話しかけられる訳にはいかない。異坂は電柱の後ろでグっと誓ったのだ。
大きく深呼吸をし、歩道の真ん中を歩き出した。砂糖に蟻が群がるように、異坂は記者の餌食であるが異坂にも作戦がある。名付けて、ガン無視作戦!(異坂談)
「オールマイトの授業風景に一言お願いします!!」
「。」
無視というより上の空が正しいのかもしれないが、異坂はいつも通り無口で真顔。しかし周りを囲まれてしまったため動けない。負けないけど勝てない状態に陥った。
平然とそこに立つ異坂の心情はもうカオスである。心中は、そこらの迷子より泣いているので脳の3割ほどが綿菓子。ふわふわすぎて動けたもんじゃない。お前は本当にあがり症だけしか患ってないのか。疑問である。
異坂の胃が縮み、嘔吐しそうになったその時、聞こえたのだ。
「小汚っ!?」
小汚い←
今日もロン毛の相澤が登場した。異坂からの、塩の粒並みの好感度を塩飯ほどに上げるべくやってきたのだ。
「すみません。彼は急いでいるんです」
「あっちょ、一言!」
行きましょうベノムさん。と異坂の手を分厚い手袋越しに掴み、相澤は大股で歩き出した。異坂は歩幅の合わない相澤に手を引かれ、目眩がした。
後に、ダメージの蓄積により吐いた。←
あぁ、やれやれ。今朝は酷い目にあった。
そんな、何もうつさない黒い瞳が手元に落ちる。知っての通り、朝はコンビニさえ寄れなかった。職員室の冷蔵庫を開けて、「異坂」と小さく書かれた手前の棚から飲料ゼリーを取り出す。
自身の席に戻りながら、カチッと蓋を開け、10秒でチャージ。←
もごもごとゼリーを飲み込んだ。
また、天井のスピーカーから唸る様に警報がなった。その神経を逆撫でるような、不安を煽るような音を耳に、異坂は空の容器をクシュっと握った。
俗に言う、雄英バリアーが突破された。険しい顔をしながら扉に手をかける。しかし腕に力を込める前に扉は開いた。突然の自動ドア化に目を5回ほど泳がした異坂の目の前には黄色いトサカ。
プレゼントマイクは異坂と同様、開いた戸の先にいる整いながらも恐ろしい顔を一目、うわっと声をあげた。そして、いつも通りの音量で、しかし落ち着きのない口調で、「パイロット、ちょっと来てくれ!」と職員室を出つつ言った。
未だに混乱している異坂はコクリと頷く。やっと状況を理解した廊下で絶望の淵に立った。マイクの背中を睨みつけながら親指を握る。尚、悪意は無い。
晴れやかな空の下に足速に飛び出すと、頭を掻く相澤とそれを囲むレポーターたちがいた。あからさまに嫌な顔をする異坂に気づいた相澤は「なんとかして」と懇願の困り顔をする。
心の中で、ゔっと唸りながら考える。自分1人じゃどうしようもない。もうどうにでもなれ。と今日一番の怒り顔を見せつけた。静かに燃える殺意に近い緊張にたじろぐ大衆に更に追い討ち。
レザー繊維の手袋をシュルッと外し、親指と人差し指を見せつける。2本の指からダラリと垂れる黒い液体。異坂の白い肌を伝ってレンガの地面に落ちる。
ジュッと溶ける音と共に低く通る声が零れる。
「お引き取りを願います。」
相澤の瞳に映る異坂は実に恐ろしく、相澤は本当にこの人と仲良くなろうとしていいのだろうか。と少々怯えた様である。
また、異坂の瞳に映るレポーター達は正しく鬼の様で、本当にこの人達と関わって大丈夫なのか。と絶句していた様である。
USJ行きのバスに乗り込んだA組一堂を横目で見ながら仮眠室のソファに腰をおろす。暇な異坂は消えないクマを撫でながら長い脚を組む。
時計の音を耳から耳へ聞き流していると後方から明るい声。
「やぁ異坂くん!校長さ!」
やっと作れた時間はいつも誰かによって潰される。誰も彼に休みをやらない。絶望に浸る異坂なんてどこの風。びっくり箱の様に登場した校長、根津は異坂の隣に飛び乗った。
あからさまに嫌そうな顔をする異坂は根津にその顔を合わせないまま言った。
「…休憩中です」
「暇なんだね!ババ抜きでもしよう!」
人間が嫌い、大嫌いな異坂にとって、根津は唯一まともに会話ができる人物である。また、自身を直々に教師への道に導いた根津を異坂は信頼していた。
ただ、あがり症が完全に鎮まるか、と言われればそうでもなく。根津の性格を、異坂は少し面倒臭いと思うのであった。
いつもの様にペラペラと話す根津をとことん無視しながらただ壁を見つめる。無になる。
「初めるのさ!」
いつの間にか手元にあるカードを見て少々驚きつつ嫌がりつつ、ゲームが始まる。一発で負けた。それはもう目にも止まらぬ速さで。ハッハッハと乾いた笑いをする根津は再びカードを混ぜる。
「楽しそうなこと!してるじゃなぁい?」
カツカツと言う軽快な足音とともに入ってきたのはミッドナイト(暇)である。扉に寄りかかりセクシーに胸を突き出すが彼らはババ抜きを続けた。←
「もう!何なのよ!!」
プリプリ怒るミッドナイトの背後から再び足音。入ってきたのは委員長、飯田天哉。普段の彼とは全く違う酷い血相でミッドナイトを見る。
「ユ、USJに…!ヴィランが…!」
「!!」
のほほんとした雰囲気はすぐに消え、ヒーロー達の目は変わる。
「落ち着いて。大丈夫よ」
異坂はダイヤのエースとジョーカーを机に放って白衣をピシッと着直す。そして根津を見て言う。
「僕が先に向かいます。後ほど宜しくお願いします。」
座り込む飯田の肩に手をポンと置いてボソっと言う。
「ありがとう…。」
異坂は廊下を走り出した。
USJへ、建ち並ぶ校舎を踏台に跳んで行く。異坂は無駄にある運動神経を活かし、パルクールをする様に動く。まるでスーパーボールである。←
飯田くんが来るまで全く気付かなかった。生徒や相澤先生は無事なんだろうか。
ぐるぐると回る思考回路に歯止めをかけ、校舎を飛び降りる。下からの風は異坂の熱い頭を冷やし、また別の高揚感を生んだ。助けなくてはならない。必ず。ヒーローだから。
グニャリと曲がった扉の奥の奥には様子のおかしいオールマイトと謎のヴィラン。もう彼は限界を迎えているはずだ。
「っ!先生ぇ…オールマイトが…!」
「…大丈夫だ、ょ。」
「声ちっちゃ…!」←
オールマイトが拭い残した不安を一掃する様に声を掛ける。自分じゃオールマイトの様にはなれないことは既に分かっている。だからなんだ。異坂は手袋をグッと引く。
「…あの大男は何?」
麗日は鼻をズッと啜り異坂の喋り方に違和感を覚えつつ言った。←
「えっと、オールマイト並のパワーで…」
「なにそれ…?」
喋り方のギャップが強い異坂はポケットからボールペンを取り出す。手袋ではなく、直接指に触れるペンは冷たい。異坂の黒い爪からダラリと液体が垂れる。
少し弱めの毒をペンに塗り空気を切る様に投げる。空気の抵抗を受けていない様なそれはほぼ弾丸と言ってもよかった。
脳無に向かって投げられたペンは見事(なぜか)軌道を変え、手の男の方へ。真っ直ぐペンも投げられない自分にイラついた異坂は広場へ飛び降りる。ヤケクソである。
「んだよ、これ。ボールペン?」
見事キャッチされた毒付きペンは死柄木により粉々に。粉々になったペンを見て更に悲しくなった異坂←
「大事にしてたのに…」
「じゃあ投げるなよ」
敵が正論を言う。オールマイトは異坂が喋れることに驚愕。←
ボロボロの13号に相澤。それを見つめる異坂。
「酷いことするね…」
挑発気味に発された一言に死柄木が眉を顰める。そして不満気に口を開き、詰め寄る。耳元での声。
「何言ってんだパイロット?あんたも同じ事してたじゃねぇか!」
ボロリと右腕が崩れる。しかし異坂はいつも通りの真顔で左手を大きく振るう。死柄木の肌に付く少量の毒。
「あちっ…そこは!反射的に引くもんだろうがっ」
死柄木が振りかぶる手に一つの弾丸。異坂のペンとは比べ物にならない程正確な弾。
心底涙目で呟く。
「やっと来たよ…。」
「っ今度こそゲームオーバーか。」
「1年A組、飯田天哉!ただいま戻りました!」
埃っぽいUSJに響いた委員長の声。
「先生!肘大丈夫ですか!?」
「」
「無視されたんですけど!?」
遠くからミッドナイトが異坂に叫ぶ。アドレナリンやら毒やらの分泌で痛みなど無い状態の彼は乾いた紙粘土のように崩れた肘にびっくりしていた。気づけよ←
「うわっ何何ヴィラン怖っ!危な!?」
なんて(心の中で)泣き喚く。
ただ、なかなか戦闘モードから抜け出せない異坂もいる。最後の一本のボールペンを気を取られている死柄木に振り下ろす。
じわり、と流れる毒が何かしらのおまけで貰ったペンに染み付く。それをヒュッと音がなるほどの速さで突きつけてくるのだから流石の死柄木も避けられなかった。
「い゛っ」
「僕の生徒が泣いている。スズランの毒、薄め。死なないよ。」
異坂が個性を使用する時は、あまり小さい事件には携わらず、良ければ気絶、悪ければ死亡と、奥の奥の手に使う。つまり連続殺人犯や、ビルを真っ二つにする様なヴィランだ。しかし念のため、弱い毒を取り込むべく校庭に咲いていたスズランをむしって食べた思い出は記憶に新しい。
スズランには嘔吐、頭痛、めまいや血圧低下、心臓麻痺などの効果があるが異坂ブレンドで、麻酔8、スズラン2、ほどの割合になっており、死柄木は眠気と微量の痺れると頭痛が感じられてくる頃だ。
傷口のある肩からジクジクと毒が回っていく。早くなる鼓動と共にだんだんと息を切らす死柄木はこの場にいる全ての英雄達を睨みつけ言う。
「次は絶対に殺すからな。平和の象徴オールマイト…!」
黒霧に包み込まれる死柄木に最後の一振り。投げたものはペンでもサジでもない。投球フォームはフリスビー。投げたのはサラッと音のする、解毒剤だった。
これは優しさなのだろうか。←
お手製の解毒剤を投げた反動で地面に倒れ込む。手と手の間に見える小石を見下ろしながら少し荒い呼吸をスパスパ整えて、手袋を付け直す。やっと帰れる…。でも書類報告必須だな今回。あぁ…残業か。←怪我人
頭が冷えてくると、体の色々な異変に気づく。そう。例えばこの肘!!なにこれ痛すぎ!?治るのこれ!?しかも出血すごいよ。白衣が真っ赤だよ。クリーニング屋さんに引かれちゃう…!←倒れてる人
「「「「異坂先生!!」」」」
「」
ビクってなった。どうしてこう、僕は弱ってると追い討ちをかけられるんだ?僕、何かしました?ボールペン2本も消費したこと怒ってる?
「先生!?大丈夫ですか!?」
緑谷くんがいかにも心配してますって顔してる。嬉しいよ。先生、生徒がいい子で本当に嬉しい。けどさ、自分の心配しなさいよ…!手、バッキバキで何言ってんのかな!?先生心配!!
「…ゆび、だいじょぶ?」
「えっえぇ!?」
そんなに引くことないじゃん。傷ついたわ。←違う
「パイロット、あんたも行きますよ」
セメントスが僕を担ぐ。やめて怖い助けて。←怪我人
THE・雑学
異坂義 (ベノムパイロット)(29)
Birthday:9/8
Height:187cm
好きなもの:飛行機
イケメン。表情が怖すぎて台無し。
USJでの怪我は、幸い右腕全体にヒビが入って何故か1週間ほど動かなくなったくらいで、後遺症はたまに痛むだけだそうだ。←どこが幸い
リカバリーガールが大袈裟なだけでこんなにグルグルに巻く必要はない。外してしまおうか。
ギプスの結び目に手をかける。
「異坂先生!!そろそろ雄英体育祭ですよ!」
「」
ミッドナイトはそんな僕を見かねたのか、話しかけてきた。その加虐的目には、ギプスを外すな。という一種の呪いみたいな圧が含まれていた。こわいよ。
というか体育祭か…。今年もこんな季節が来てしまったよ…辛い。あ、でも今年は楽か…。何も任されてないし。昨年は副主審やらされてたからなぁ。
まぁいい方か…と回転椅子ごとミッドナイトに向き直る。
突然渡されたのは小さな紙だった。半分に折られている。
「」
なにこれって聞こうと思ったけど僕あがり症だった←
「レクでやる借り物競走のお題をここに書といてください!」
「」
早く席に戻ってほしいので深く頷いた。ミッドナイトは満足げだった。
くるりと机を向いてペンを取る。
借り物競走か。僕には絶対できない…。まず人から物を借りるなんてとてもできない…。というか人間無理…。←
何にしようか…。どうせなら僕が借りれない物を借りてほしい。
___5分後
ミッドナイトの肩を後ろから優しく叩いた異坂。あがり症がどうとか言っていたが割とあがってない。USJでのミッドナイトの成果か。まぁ意外と彼はちょろい。←
「あら、異坂先生、書き終わりましたか?」
スッと紳士に紙を渡す。顔は真顔というか能面なため紙切れを渡すだけでも何かの取引の様に見える。
ただ、そんな異坂には怯まないミッドナイト。
「ありがとうございまーす!授業ガンバってくださいね~」
この後授業だった異坂は、職員室を出る際小さく手を振っていた。ミッドナイトは久しぶりにキュンとしたそうな。
異坂が職員室を出て行って数十秒後、後ろ方で聞き耳を立てていたプレゼントマイクがミッドナイトの席に行く。
「パイロットはなんて書いたんだ!?」
「さあ…見ちゃいましょうか!」
一番なに書いたか分からないなぁ、なんて言う2人は机にドンと構える異坂の紙を見ていた。
「せーので開くぞ!」
「「せーのっ!」」
【背脂】
THE・補足
彼は天然です。
雄英体育祭当日。それぞれがこの2週間、この行事のためだけに汗を流し、覚悟を決める。かつてのオリンピックに変わるという今日、ヘマはできない。
空にはカラフルな煙弾が打ち上がり、会場にはこれでもかという程の一般人、企業家、そしてヒーローで埋め尽くされていた。
そんな中、一年会場は選手入場が終わり、主審が登場することになっていた。今年はミッドナイトだ。
整列した一年生たちの前を悠々と、ハイヒールを鳴らしながら登場。その堂々たる姿にさすが雄英…!となった者もいるだろう。
「…?ベノムさんどこ行った?」
「oh!さっきまでそこに居たのにな」
異坂は先程まで実況席にいた。(隅っこにいた)だが相澤の言う通り、見当たらない。長身かつ美形の彼が動こうものなら誰だって少しは気付くはずだ。
「一体どこに…」
___ズルズル
「ズルズル…?」
「」←白目
(((((!!?)))))
「え、あれベノムさん」
異坂はミッドナイトの手によって拉致され、生徒たちの前、もとい会場で一番目立つ位置に引きずられてきてしまったのだ。
タートルネックを掴まれぐったりとした彼に追い討ちをかける様にミッドナイトは言う。
「パイロット先生がどうしてもって言うから連れてきたわ!!!」
(((((ミッドナイト一体何したんだ…!!)))))
「ほら先生!起きて起きて!!」
タートルネックをゆっさゆっさと引っ張り、無理矢理でも異坂を起こす。可哀想なことに異坂はうっすら目を開けた。見えたのは、異坂が大の苦手な光景。
見渡す限りの人、人、人。しかも全員異坂を(心配の目で)見ている。異坂、再びダウン。
「…まぁいいわ!!選手宣誓!A組!爆豪勝己!!」
「ベノムさん、可哀想に…」
「全身包帯のオメェが言うと説得力ないな」
こうして、イケメンの気絶と人々の心配と困惑が入り混じった謎の空気から、緩やかに体育祭は開始されたのだ。
「スタート~!!!」
呆気に取られる観客を他所にミッドナイトは鞭を鳴らし、叫んだ。生徒は一瞬ポカンとしたがどんどん進むヒーロー科に続いた。
そんな中、異坂は走馬灯の停止ボタンをなんとか押し、現実世界及び彼にとっての地獄に帰ってきた。
(BACK IN HELL…(野太い声)
「ハッ」
「うふふ」
世界で一番苦手なもの達に囲まれた彼は泣きそうであった。もちろん顔は怖いままだが泣きそうなのである。想像してみてほしい。大量のゴキさんに囲まれ、拘束され、いつ彼らが来てもおかしくない状況に置かれたら…。
異坂は泣くのだ。(人間=G)
オマケにミッドナイトはタートルネックをぐいぐい引っ張って異坂のライフを削る。表情こそ変わらないものの、積み重なったダメージに弱ってしまう。フルボッコである。
「南無南無南無南無」
「こっわ」
一方相澤は他人事の様な心配している様な、呆れ、苦笑、どれにも当たらない感情をしていた。虚無だ虚無。
(助けて)
(無理)
虚無ってる相澤に助けを懇願する異坂はやはり運が悪い。普段の死んだ目に本当にヤバイと映っている。相澤はしっかりそれを見た。だが無視した。←
ふいっと目を逸らされたので異坂は涙腺が決壊した。目玉が吹っ飛ぶんじゃないかと疑うほど涙がでている。心の中で←
僕は何をしてしまったんだろう。ミッドナイトは僕の何が気に食わないのか。そんな答えの出ない疑問。考えることを放棄した異坂。
「すいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませ」←
彼は謝っていた。ブツブツと。
「よく聞こえないけどベノムさんが壊れた気がする」
プレゼント・マイクのアホみたいなアナウンスと共に観客は席を立ち、「圧巻だったなぁ!」とか、「前半でこれかー」とかほざいている。
お昼休みの時間だ。
「イレイザー、メシ行こうぜ!」
「断る。」
相澤は思い出したようにマイクを軽く蹴り、重症(ミッドナイトのせい)の異坂のいる、テントの隅に向かった。
頭を壁にくっつけて三角座りをしている異坂の背中には足跡がいくつかついていた。キノコが生えるぐらい異坂の周りはじっとりしている。
「異坂さん、」
過剰な湿気を腕で払いながら相澤は口を開く。普段の1.5倍程は血色が悪い異坂を見るなり「いや顔面蒼白か。」と心の中でつぶやいた。異坂、なんとなく悪口を言われる。
「あの、大丈夫ですか?」
異坂に目線を合わせるように屈み一応、一応心配する。警戒心極高の異坂に睨まれるのがお決まりだというのに。
ギロリ
あー、ほら言ったこっちゃない。←
相澤は慣れなのか、いつも異坂に特攻して麻痺しているのかニヒルな笑みをうっすく浮かべている。目はかっぴらいてる。どういう心情だ。嬉しいのか睨まれて。
「十秒チャージいりますか?」
めげない相澤。
「」
見上げる異坂(上目遣いに近い睨み)。
お昼(戦い)はまだ始まったばかりだ。
用もなく、手を繋ごうとしたけど相手は握り返してくれない
寂しい気持ちを閉じ込めて手を離した。
1年前はちゃんと握ってくれたのにね。私の手はずっとあれから冷たいまんま。
暖かくして欲しいって気持ちもまだ閉まっていて。
忘れてしまえばいいの、
口に出してしまえばまた貴方を深く傷付けてしまう。
相手に求めてしまう。
難しい問題ってまとめてしまえば楽だね。
でもね、難しいんだよ。
また。会えるとどれだけ嬉しいのだろうか。
会えたらいいなって、思う毎日。
会いに行けるあの子は毎日輝いている。
その笑顔を見たら、どうしても憎めない。
同じ気持ちって思うから。
ただ、画面越しでもいい。やっぱりみたいし、聴きたい。
そんな心の声なんて実際には言えない。
自分の手を強く握る。
手を繋いで
今日、たった今ここでなら
誰にも会わないから
誰にもバレないから
誰にも気兼ねなく
太陽の下で
たくさんの人がいる中で
手を繋いで
【手を繋いで】
手を繋いで道を歩く
たとえ君が転びそうになっても穴に落ちても引っ張り上げる事ができるから
いつか君がもし手を離して私と別れることを選択するのなら止めない
私には君の人生を決める権利なんて持ってないから
だけど今は
今だけは私と歩いて
私にその温かい手を握らせてください
手を繋いで感じる君の温かさに救われています