『夫婦』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
書類上の契約なんていらないあんたの心を縛りたい。
うそ。
法的にも縛り付けたい。
もう紐でも鎖でも情でもいい。
なんなの、こいつ
2023/11/22 夫婦
「いい夫婦」の“いい“って、何が“いい“んだろう?
機嫌がいい、仲がいい、頭がいい、羽振りがいい、気前がいい、運動神経がいい、声がいい……。
まぁ「いい」という言葉にあまり悪い印象は無いけれど。
誰にとっての“いい“なんだろう?
それがお互いにとって、とか子供にとって、とかならいいけど、〇〇にとって「都合のいい」、〇〇という目に見えないものを守るための装置としての夫婦なら、そんなものも、言葉も無くなっしまえ、と思う。
あ、今わたしが言った「いい」も、誰かにとって都合のいい「いい」だった。
『夫婦』
【夫婦】
ルームシェアを続けて五年。両親も友人たちも皆一様に「そろそろ結婚したら」なんて言ってくる。今日も今日とて職場の同期たちとの忘年会で結婚を勧められ、私の機嫌は急降下していた。
「うわ、無茶苦茶不満そうな顔してんね」
表情が乏しいと評されがちな私の顔を一瞥しただけで、こんな的確なことを言ってくるのは世界で君だけだ。おつかれ、なんて言葉とともに犬でも撫でるみたいにワシャワシャと髪をかき混ぜられる。
君のことは好きだし、一緒に生きていきたいとは思っている。でもそれは私たちの意思による結論であって、法的な拘束力だとか世間的な体裁だとか、そういうものに縛られるのはごめんだ。私も君もその点は合意していて、むしろそこに共感できたからこそ私たちは互いを隣に置くことを選んだ。
「おかえり、ココアでも淹れようか?」
「……ただいま。うん、飲みたい」
夫婦なんて形式、私たちには必要ない。おかえりとただいたを言い合える、それだけの関係性があれば必要十分だ。
キッチンへと向かう君の大きな背へと、小さくありがとうと囁いた。
僕のお父さんは
ノリが良くて
面白くて
子供みたいで
優しい
僕のお母さんは
面白くて
頭が良くて
たまに怒るけど
温かい
僕は正反対で
ノリも悪いし
面白くない
頭も良くないし
めちゃくちゃ陰キャ
お母さんとお父さんの
どこを継いだんだろう
でも
お母さんとお父さんみたいに
明るくて
楽しくて
優しくて
一緒にいると安心する
そんな人に僕もなりたい
目が覚めたら知らない場所にいた。
木々に囲われた西洋風の建物があり、ぽつんと人影が見えた。
「御魂の探求者よ。灰を集め黒煙をあげよ。さすれば汝の時は再び進むだろう」
フードを被り佇むやつに話しかけた。
「何言ってたか分かった?」
「さっぱり分からん。灰を集めろとか言ってたのは聞こえた」
「なら、とりあえず灰探してみるか」
こうして俺たちは訳も分からないまま動き出した。
どうすればいいの?
恋や愛を根にして結んだ契約ではなかった。二週に一度落ち合って食事を共にする。定例会議である。家族、友達、会社、私たち以外の私たちについて、つまりほぼすべてについて、最低限の報告をする。今の時期なら、年末調整が、扶養はどうする、年始に互いの実家に顔を出すか、などになる。私は長らく休職をしていて、自分の貯金を食い潰しており、まあそういう話になる。私たちの家はレストランにあり、定食屋にあり、居酒屋にあり、バーにある。おかえりと言えば、ただいまが返る。おかえりと言われ、ただいまと返す。ポモドーロパスタを頼み、君も食べるか尋ね、トマトが嫌いなんだと教えられ、次の会議には忘れたりする。ごちそうさまを互いに挟んだのちに、行ってらっしゃいと言う。行ってきますと返る。行ってらっしゃいと言われ、行ってきますと返す。
[夫婦]
夫婦はもともと他人
だからこそ
お互いに理解し合い
お互いのことを考え
お互いのために動く
子供は自分の半身
自分のために動くのはあたりまえ
僕の両親はどっちも男。
一見変わっているように見えるが僕は満足だ。
だって、どっちもかっこいい。
男性妊娠?で僕を産んだママ(男)は夕焼色の髪に目は空色でとても綺麗だ。
パパは背が高い、ママをいつもからかってる。
でも、此の両親が僕は大好きだ。
# 2
夫婦
恋人から結婚して夫婦になった
そしたら急に彼が優しくなった
結婚したら人は変わるんだね。
私はそんな彼なんて望んでないのに
過日、入籍した
それまでは恋人同士だったのが、
今は『夫婦』
何が違うのだろう
恋人時代と入籍以外に
一つだけ明確に違ったのは、
2人で神様の前で
永遠の愛を誓ったことぐらい
わたしは特段の信者では
ないけれど、
このセレモニーだけは、
勝手に重く受け止めている
いや
重く受け止めようとしている
重く受け止めたい……
〝関白宣言♪”のようになってきた
そーっと、寝よ
まー
一番近くで見てきた。
たくさんの壁を乗り越えてきた二人の背中が
偉大で、尊く、一番近くて遠い存在のように感じる。
共に歩む決断をした二人の背中をこの目に焼き付けて。
「良い夫婦の日」
真っ先に思い浮かぶのが
あなた達であることを誇りに思うよ
娘より
いつものように、何をするでもなくテレビを点けてぼんやりとしていた。テレビは夕方のニュースの時間帯で、アナウンサーが訥々と今日の出来事を語る。
駆は隣でスマホを弄っている。テレビの音量に文句を言わないから、作業ゲーでもしているのだろう。
『本日、LGBTに関する大規模デモが国会前でありました……』
ニュースが切り替わる。同性婚を法的に認めろというデモ行進が行われたという内容だった。
「そこまでして結婚したいもんかね」
スマホから目は離さないまま、駆が呟いた。
「俺は結婚とか、面倒くさいだけだと思うけど」
うんざりした様子の駆は、なにか思い出しているようだった。おそらくは、両親に言われ育った「長男のお前は結婚して家業を継げ」という言葉を。それが窮屈で家を出た駆にとって、思い出しただけで苦い顔になるのは実家絡みのことばかりだ。
「まあ、したい人にとっては法律を曲げてでもしたいことなんじゃないか」
「え、七実は結婚したいの」
「したい人は、って言ったろ。俺自身のことじゃない」
対する俺はといえば、両親からは完全に無関心のネグレクトを喰らったせいで、所謂あたたかい家庭のイメージを持てないでいる。
『本日11月22日はいい夫婦の日です。街で夫婦円満の秘訣をインタビューしてきました……』
ニュースがまた別のトピックに変わる。結婚が認められずにデモをした話の後にいい夫婦とは、なかなか無神経な番組構成だ。
「いい夫婦、か」
駆がまたニュースに反応した。
「七実と俺は、いい夫婦になれるような気はするけど」
噎せそうになる。
「なんだそれ、バッテリー的なことか」
「うーん、まあ、そういう意味で捉えてもいいけど」
駆が顔を上げる。笑顔だった。
「基本似てるし、それでいて補完しあえるところも多い。いいコンビじゃない?」
「まあ、否定はしないが」
俺は仏頂面になる。
「わざわざ夫婦とか言って俺の反応で遊ぶな」
「バレたか」
全く、こいつが明らかな笑顔の時は碌なことじゃない。
軽く髪を掻いて、おれはテレビを消した。
(お題 夫婦)
2023.11.2?
大好き、そう思える人に出会えるのが
どんなに幸せか。
私は幸せです。大好きと思える人にたくさん
出会えているから。
でもまだ"夫婦"の喜び・幸せを知らない。
いつか誰かが教えてくれるかな。
というより、教えたいと思える相手が良いのかもな。
「ねえ、君はいつか、僕にこう言ったろ?」
美しい世界で生きたいの
ってさ。
「ああ、確かに言ったし、今も私、そう思ってるわ!
それがあなた、どうかしたの?」
君が僕を不思議そうにじっと見つめる。
「ああいや、ただ気になっただけなんだ。
君の考える美しい世界って、どういうものなんだい?」
ええ、そうね…。君は目をつむり顎に手を当て、考えるようなそぶりを見せたと思えば、
ソファーからぱっと立ち上がると手を広げ
「そうね!例えば、空と海が青くて、花がたくさん咲いていて、時に雪が降って、
こぎつねや野うさぎが元気に走り回っていて、…そして、
君は僕に飛びつき、強くぎゅっと抱きしめ
そして!こんな風に窓に映る夕暮れを眺めながら、あなたと笑い合える そんな世界だったら私、とっても素敵だって思うわ!」
「それじゃあ、今と変わらないじゃないか…!ああ、許しておくれ 僕の愛しい人!
そんなことを言われたから、僕は君をもう離せなくなっちまったよ!」
背中に腕を回し、僕もぎゅうっと強く抱きしめ、2人でくるくると回る
そして、2人で目を合わせくすくすと笑い合う。
「ねえ、あなた。きっとこういうのを幸せって言うのね。...少し耳を貸してちょうだいな」
私、空と海は赤色でも、世界中の花が全部枯れたとしても、空から降るものが雨だけになったとしても、あなたがいる限り、きっと この世界で生き続けるわ。
「夫婦」
今はまだ結婚していない私は
想像で書こうと思う。
夫婦、それは寄り添い合える間柄。
然し今の私に夫婦願望は見当たらない、
詰りは結婚願望がないのかも知れない。
夫婦と云えば、仲が良い関係性をイメージする
然し世の中の人々を見ていると夫婦関係に
狂いが生じていると思い感じる日々
浮気、DV、嫉妬、離婚など
沢山の狂いを見る時がある
(何故結婚したのだろうか?)
勿論、夫婦の仲が悪いと
子供にすら悪い影響を及ぼしてしまう
(子供は親の背中を見て育つ)
言い換えれば、
子供は親の真似をする傾向がある。
親が人の悪口を言えば
子供は人の悪口を言う人格となり
人々や自身を傷付けてしまう道理になる
私は思う、夫婦とは(※円満※)でなければ
毒親と毒子と成り下がってしまうと。
そう成らない為にはどうしたら良いか
日々考えては迷走状態に至る結末。
それはその筈、私はまだ夫婦未体験者
想像は妄想でしかない。
もしも私が夫婦と云う関係性を築き
子供をも授かったら私は子供に対し
誇りを持って胸を張れるような
言動を意図的に行い、子供に対して
学びを取らせようと考えている。
(果してその時は来るのだろうか?)
夫婦関係を私は築き上げる事ができるのか
その間に産まれた生命を夫婦揃って
最後まで見届けられるだろうか?
今はまだ未知なる領域であり
考えても闇に心を奪われてしまう。
【夫婦、其れは、※誓いあった結び目※】
切ることなく紡ぎ合いて繋げる一本道への
架け橋でなければ子は道に迷い地に溺れる。
私は思う 寄り添い合えるとは
贅沢な命の欠片であると
私は思う 末永く夫婦揃って
子の架け橋を崩してはならない
『命の責任』である、と。
今日は「いい夫婦」の日。
人と人が出会い、惹かれ合い、恋人になる
そして時を経て恋人から夫婦へとなる
一人で歩んでいた人生は
二人であゆむ人生へとなり
一人で感じていた喜びは
二人でいると倍になる
悲しい時は寄り添い支え合って
楽しい時は一緒に笑いあって
そうやってこれからも
二人で人生を共に歩んでいこうね。
夫婦になりたかった。でも君にとって僕は遊びなんだろう。虚しいけど、悲しいけど、仕方がないのかもしれない。むしろ、付き合えただけでも素晴らしい事だったのかもしれない。こんなに辛い思いは捨ててしまうべきなのに、捨てずにとっておいてしまう。あぁ、僕は君と夫婦りなりたい。
最近、泣きたくなることが多いい
気づいたら、涙か出ていることもある
「泣きないなら泣いていいんだよ」
泣きたいなら、いっぱい泣こ
泣くのは恥ずかしいことじゃない
泣いて泣いていっぱい泣こ
一緒に泣くからさ、
お話聞かせて?
夫婦と言うと、どんなものを思い浮かべるだろうか。
例えば、家庭。
例えば、男女。
例えば、結婚。
或いは幸せなんかだろうか?逆に、不幸を思う人もいるかもしれない。
一人ひとり思い描く「夫婦」は違うし、いい思いを抱く人も、悪い思いを持つ人だって中にはいるのだ。
だから、「夫婦」なんて言うひとつの熟語だけでは。
その関係性なんて我々他人には計り知れないものだと、貴方は思わないですか?
さて、本題に移る前に自己紹介だけ。
私はしがない音楽家。曲の作れない音楽家だよ。
これは、私が今までに出会った数多の思い出たちとの物語。
今日は、今みたいに寒い冬の時期に出会った1組の夫婦のお話をお伝えしよう。
どうか彼らが悲しまぬよう、しっかりと見届けてあげておくれ。
「ねえ!聞いてらっしゃる?浩二さんったら酷いのよ!」
「勿論。それで?そのー……えと。櫻子様がお花をあげたんですっけ?」
「やっぱりなんにも聞いていないじゃないの!これだから音楽家は変人って言われるんだわ!」
「ははは。そうかもですねぇ。それで?話の続きは?」
「んま!聞いていなかったのは貴方なのに!失礼しちゃうわ。」
___某年 12月。
とある静かな静かな田舎の中心部でその会話は行われていた。
どの時代にもよくある色恋話。ただ少し違うのは、この女が上級階級の生まれだということだろうか。
女の名は櫻子。
彼女が想いを寄せている相手というのは、平民の浩二という男らしい。
あるきっかけで彼女と出会ってから、近頃はひっきりなしに同じような話ばかり聞かされているのだ。
やれ反応が冷たかっただの、やれ贈り物を渡せなかっただの。
音楽に一生をかけている私からしたら、どれも可愛らしくいじらしい話ばかり。
少しばかり、進展という名のスパイスでもなければ飽きてしまうのだ。
そんな私にはお構い無しに年頃の少女は悩ましげに頬杖を付いて息を吐く。
まるで彼女が世界の中心かのような仕草に思わず微笑みを零すが、恐らく彼女はそれにさえ気づかないのだろう。
「もう一度言うけど、浩二さんったら酷いの!彼に会うために目一杯めかしこんだって言うのに、彼なんて言ったと思う!」
「さぁ?なんて言ったんです?」
「何も言わないの!有り得ないわ!もっとこう、…もっと。」
「可愛らしい、くらい言ってくれたっていいじゃない…」と、先程までの威勢をすっかりなくした彼女は俯いた。
乙女心というのはむつかしいもので、どうやら今日は自身の変化に気づいて欲しかったのだという。
暫く俯いていた彼女の傍にある、冷めかけた紅茶をそっとこちら側に下げればそれを追うように彼女の目線も上がる。
そしてまた語り出すのだ。
「………でもね、音楽家。…私聞いたのよ。浩二さんね?」
「今、お金を貯めてるんですって。」
「へえ。そりゃまたなんで?」
この時代だ。貯まるものも貯まらないだろうに。
そんな無慈悲な言葉を飲み込んで言葉の続きを待った。
「___わたしに、プロポーズするために。」
花も恥じらうとはまさにこの事。
今までの元気はつらつな彼女は消え去って、聞き取るのも困難な程に小さな声でそんなことを告げられた。
「ほら、私の家はお金が有るでしょう。でも彼は違う。その、なんて言うのかしら。ちい?かくさ?という物を、彼は気にしているんですって。」
「そんなもの、私は気にしないのにね。」
そう言ってクスリと笑った彼女は心底愛しそうな、それでいて心底嬉しそうに微笑んだ。
それから白魚のように綺麗な傷一つ無い小さな手で顔を覆って言うのだ。
「楽しみだなあ」
「聞いてますか、音楽家のお人!」
「嗚呼、ああ。聞いてますよぅ。お前らは揃いも揃って。」
「だって!あんなに可愛らしいんですよ!吐き出さなければやって行けない!」
ダン!と机に握り拳を叩きつけたのは、まあお察し。こやつがかの「浩二さん」本人である。
彼女が私に話を語るのであれば、彼は私に苦悩をぶつけに来るのだ。
あーあ。私は相談屋でなく音楽家のはずなのに。
まあ、いいですけど。
「……僕ね、金を貯めているんです。…少しでも彼女に、櫻子さんに近づきたい。………でも思うようには行かない」
「そりゃあね。むつかしいでしょう。」
「…それでもです。頑張りたい。一所懸命です。この、変な色の水も有難う御座います。これが有るだけで気持ちの持ちようが変わるんだ」
「それね。紅茶っていうんだよ。何度言えば分かるんだい」
グ、と拳を強く握りながら彼はいつも言うのだ。
まるでここでの宣言が覚悟を決めるための儀式のように。
彼はその「儀式」だけ行ったあと、紅茶を勢いよく飲み干して此処を去っていく。
彼女と違うところと言われればそこだろう。
一方的にベラベラと惚気を聞かせたあと、覚悟を決めて勝手に此処を出ていく。
私は話を聞くだけだから楽だね。
まあ、惚気を聞かせられるのは少し……否、だいぶキツいけど。
はてさて、彼等が祝言をあげることになるのは何時だろうか。
私も見ることが出来ればいいけれど。
「……たのしみだなあ。」
その日、は。あまりにも突然やってくるのだ。
何時もはスキップなんかをして楽しそうにやってくる櫻子が、扉を蹴破る勢いで泣きじゃくりながら此処を尋ねてきた。
そして私にしがみつきながら言うのだ。
「音楽家!!!!!教えなさい、私に教えて!!ねえ、私の家はお金があるのでしょう?権力があるのでしょう!ねえ、だったら、あの人、を、!!!!!」
「落ち着いて。落ち着いてください。何があったの。」
「落ち着いてなんて居られないわ!!時間が無い、じかん、が!あのひと、あの人が戦争に言ってしまう、ぁ、あのっ、っこ、…………こうじ、さん、があ、あ、あぁ…!!!」
_______戦争。
物事は、そう簡単に上手くは行ってくれない。
常々彼が言っていたじゃないか。そりゃあそうでしょう。
聞けば、彼は。浩二に赤紙が来たのだという。
それを彼は最後の最後まで彼女に隠しきり、彼女は。
…櫻子は、浩二が出発したその日に、その事実を知ったのだと。
彼女は未だ溢れる涙を拭いながらも語る。
「私、聞いたのよ。私の家は政府と繋がっていて、徴兵を免れることができるって。だからお兄様もお父様も兵士では無いの。でも、…っでも!…浩二さんは、まだ私の家族では、ないの。………ねえ音楽家、どうしよう、浩二さんが…!」
「しんじゃう」
その日、彼女の涙は留まることを知らずに流れ続けた。
それからまた、数日後。
チリン、と鐘がなる。
扉に目を向ければ、上質な黒い着物を着た奥方がひとり。
その手には見知った顔の映った額がひとつ。
「…もしかして、櫻子さんの。」
「……………櫻子がお世話になったようで。ありがとうございました。」
「いいえ。私も彼女には楽しませて頂きましたよ。…本当に、元気で可愛らしい娘さんだ。」
「ええ。…ほんとうに。いい子に育ってくれて良かった。」
まるで世間話。
此処ではそんな穏やかな空気が流れていた。
一息ついたあと、話を切り出したのは奥方。
「北条櫻子は、先日。……殉死致しました。恐らく、彼を追いかけて。」
ああ、彼女の苗字はこんな風なものだったのか。
頭だけは、結局嫌に冷静なのだ。
まるでこの地獄など知らないような笑顔が眩しいように感じる。
これは、「夫婦」に憧れた悲恋の物語。
___安心。それが人間の最も近くにいる敵である。
そんな彼等には、ロミオとジュリエットを。
敬具 貴方達の音楽家より愛を込めて
"夫婦"
扉の方から小気味良いノック音が三回鳴った。
「来たか」
入れよ、と言いながら椅子を回転させて体を扉の方に向ける。体を向けた先にいたのは鏡飛彩だ。
先日頼まれていたデータが用意できた事を昼休憩の時にメッセージで伝えると、今日の夕方頃を指定されたので。
「ほらよ、頼まれてたデータ。あとこれ、それ見て俺が思った事要約して書いたメモ」
デスクの上に置いていた、無骨で黒い長方形のUSBメモリと文字や図形などが書かれたメモ用紙数枚を入れた茶封筒を手渡す。
「あぁ、確かに。いつも早くて助かる」
「いいって、礼は。…つーか『いつでもいい』って送ったのに、急ぎで必要とかじゃなかったはずだろ。別に今日じゃなくても、来週とかでも良かっただろ。…大丈夫なのか?」
付け足すように心配の言葉をかける。
送ったメッセージは『この前頼まれたやつ用意できた。来るのはいつでもいい』だ。外科医としても多忙のはずなのにメッセージを送ったその日に来るなんて、とてもじゃないが驚いた。多忙すぎてギアがかかりっぱなしになってるのかと心配になりながらも『分かった』と了承した。
──なら、俺がブレーキにならなきゃ。
「問題ない。今のところ、少なく見積もっても今日明日は時間に余裕がある。確かに急ぎで必要ではなかったが、早めに受け取って損はない」
そう言いながら、渡した茶封筒を鞄の中に仕舞う。そう言う顔は、いつも通りの顔だ。
「そうか、なら良い」
──良かった。ブレーキが壊れてしまったわけではないみたいだ。
心配で少々こわばっていた心が緩み、安堵する。
そして今朝焼いたクッキーを乗せた皿を、飛彩の前に差し出す。
すると飛彩の顔が、ふっ、と緩んだ。
──なんだ?腹減ってたのか?
頭に疑問符を浮かべながら飛彩の目を見る。
「案じてくれたのか。だが今は心配には及ばない。止まる時はちゃんと自分で止まれる」
俺の顔を真っ直ぐに見て言い切る。やはりいつも通りだ。
「…あっそ」
「俺が一人でから回っていたら、その時はブレーキになって欲しい。自分がから回っているかなんて、誰かから言われないと分からないからな」
そう言いながらクッキーを一枚取って齧る。サクリ、という音が室内に響かせ、美味しそうに咀嚼して嚥下する。
「…腹が空いていたのは事実だ。今日の昼は、簡単なものしか食べられなかった」
「そ、そうか…時間、余裕あんなら全部食ってから行け」
コーヒー淹れて来る、と言って一旦部屋を出る。食器棚から適当なマグカップを取り、コーヒー粉を入れ、お湯で溶かす。コーヒーと、角砂糖を入れたシュガーポットとコーヒーフレッシュをワンカップ、それとスプーンを手に部屋に戻り、今だにクッキーを頬張る飛彩にマグカップを差し出す。
済まない、と両手でマグカップを受け取ると、デスクにシュガーポットとミルクポーションを置く。シュガーポットの蓋を開け、中の角砂糖を二つほどとコーヒーフレッシュをコーヒーの中に入れる。ほらよ、と差し出したスプーンを受け取り、ありがとう、と礼を言うとかき混ぜる。黒い液体に白が混ざり、暖かなカフェオレの色になると、一口飲み下す。
飛彩は、あいつ程ではないが甘党だ。コーヒーには、いつも砂糖を入れて飲んでいる。だが入れる量は変わる。ケーキをお供にしている時はスプーン一杯分、なにも無い時は三杯分。そして、俺が作るクッキーは二杯分。ミルクの有無に決まりはないが、時間に余裕があるかどうかで大体分かる。
「いつも俺の必要なものを把握しているな」
「はっ、自惚れんな。勝手に覚えただけだ」
ふい、と顔を逸らして答える。
「そういえば、あの子猫の様子は?」
子猫の近況を、クッキーをまた一枚手に取りながら尋ねてくる。
「あぁ、あいつか。少しずつ落ち着きがついて来てる。…まぁ、机の上に乗る回数は減ってきても完全には止めてくれねぇけど……。この前予防接種で獣医のとこに連れてったら、やっぱ俺に凄く懐いてるから俺が飼い主になってやれ、って言われた」
「良いんじゃないか?」
「んないい加減な…。ここで動物を飼うってのは…」
「できているだろ」
俺の言葉に食い入ってきた。思わず「はぁ?」と間抜けな声が漏れる。
「そうでなきゃ、今日までここで面倒を見れていない」
そんな事を言われ、少し拍子抜けする。
「そ、そう…か…?」
「そうだ。それにあの子猫は、お前にとても懐いている。子猫の意思を無視して引き離すなんて酷な事、誰もしたくないはずだ」
お前もそうだろう?、とコーヒーを一口含みながら目で訴えてくる。
それは勿論したくない。猫にも犬にも、生きているもの全てに意思がある。それを無視して、自分の勝手な理由で決めるなんて事はしたくない。
「けど俺は、あいつの今後の幸せを願ってる。俺より里親を選んでほしい」
ずっと一つの部屋の中に押し込まれるよりも、自由に家の中を走り回れる方がよっぽど自由で幸せだ。
「そうかもしれない。だが今は、だいぶ貴方に懐いている。他の人間が引き取るよりも、貴方がこのまま面倒を見る方がよっぽど良いと、少なくとも俺は思う」
「……」
驚いた。そんな事を言われるなんて思ってもみなかったから。少し間を開けて答える。
「…分かった。前向きに考える」
そう答えると、そうか、と頷いた。
「一人で難しい事は俺も協力するから、いつでも言ってくれ」
日頃の礼には足りないが、と付け足す。
「あっそ。…そん時は頼む」
そろそろ戻る、と立ち上がる。洗わなくていいから、と言ってクッキーを皿ごと渡し、外に出て姿が見えなくなるまで見送った。
「……ん?」
──それって、二人で子猫の世話をするって事…だよな?それってつまりそういう…。なんかまるで…。
そこまで考えて、あまりの恥ずかしさに頭を振って、頭に浮かんだ言葉を振り落とす。
──違う、断じて違ぇ!そんなんじゃねぇ!あいつはそんなつもりで言ったんじゃ…。
「はぁ……」
──少し冷してから中に戻ろう…。