規範に縛られた軟弱根性無し

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2/3/2024, 12:57:21 AM

「忘れないで!」
彼は最後の力を振り絞り、掠れた声で、笑顔でそう言った。

「おはよう」
「おはよう」
「今日も少し寒いね」
「そうだね」
今は3月末。もうすぐ春だというのにまだ少し寒い。
「はぁ」
朝だし寒いし春が来るしで毎日ため息から始まる
「そうため息ついちゃ気分下がるよ?」
「だって嫌なものは嫌なんだもん」
「仕方ないことじゃん。頑張ろ?一緒に」
彼は笑顔で言った。彼の笑顔はかわいい。この笑顔で言われると何でも頑張れる気がする。
「じゃあ私が頑張れるためにチューして。もちろん口に」
この時期の私はかなり甘えん坊になる。だって……
「ほっぺじゃダメ?」
「口がいい」
「体調崩しちゃうよ?」
「いいの。はやくして」
「じゃあ、ちょっとだけね」
私と彼は朝から濃厚にキスをした。彼はちょっとだけと言ったが、私が離さなかった。何分も何分も。舌を交えて、息が切れるまで、ずっと。
こんな生活が、普通の生活が、2人だけの生活が、

その日は4月に、突然やってくる。
「おはよう」
「おはよう」
「おはよう」
「おはよう」
「おはよう」
朝の挨拶が無限に続く。
私は頭を抱える。
「おはよう」
「おはよう」
「おはよう」
「おはよう」
あぁ、また、増えてしまった。
私はクローゼットから、こうなった時用のナイフを取り出した。
「おはよう」
「おはよう」
「おはよう」
違う彼を切り、前の彼と同じ彼を探す。
「おはよう」
「おはよう」
床が真紅に染まる。
「忘れないで!」
死にかけの彼は掠れた声で私に言った。
「忘れないで!」
私も真紅に染まる。
「おはよう」
最後に残ったのは………
「あなたじゃ…ない…」