あいたいと 君に伝える まなざしと
目の奥のふち 毛布にくるまる
君が死んだ日のことがやけに鮮明に書かれている日記がある。
その日記は、引っ越した時にダンボールにつめて、そのまま。ノートブックにただただDiaryと書かれているだけ。茶色い手触りで嫌な汗をかいて、しまい込んだ。
君はその日も、私を見つめていた。ベッドの上で声を押し殺して泣いている私を。
「ねえ、なんで優しいと損をするの」
今日何回目かもわからない言葉に、君はため息をついた。その日の私は、何度も何度もその言葉を繰り返した。
「そうだね」
君は呆れてそう言った。
「優しさは光だったの。あたしのなかで。時に、黄色い線をはみ出してしまう車のようなあの子でも、やさしかった。あの子の危ういテールランプを、見守ってた。あたしはガードレール。あの子みたいな子をうけとめたかった。うけとめられたと思うの。」
「疲れないの?」
「疲れない。あたしが言葉を無くすまでは、疲れない。あたしと比べれば信号機の方が疲れているわ。あんなに光っているのだから。」
「君が愛を受け取れるようになる世界がいいね。」
「なにをいってるの」
「そう思うだけ。」
君が何の気なしに言った、いや、きっとずっと思っていたコトが形作った言葉に無性に腹が立った。
「あたしが愛を受け取れないヒトなの知ってるくせに」
「そうだね」
「いつもいつも、そういって。あたしがどうしてこうなったかも全部知っているのに。」
「その通り、君が誰も愛せないことも知っているよ。だって、君は君を愛さない。つまり、君に私は愛されない。」
「うるさい、うるさい、全部知っているみたいな口を聞かないで。」
「さっきは全部知っていると言ってたね」
私の不安定な揺らぎをただただ観測している君。1番近くの君。君は、君は。
あの後、ただただ酷い光景を目にした。
自分がやった事だと思えない。君を動かない人形にするつもりはなかった。君は私であり、私は君だ。
世界ではなかった。それは、地球ではなかった。
愛すべきではなかった。
君がいる世界に私はいて、私がいる世界に君がいた。
君がいないこの世界はきっと間違いだ。
間違え続けている私を、君はきっとどこかから観測している。何もないみたいな顔で。
みていて、ずっと。
こがらし、コガラシ、こがら、し。
冷たい風が吹く度に、呪文のように唱えてみる。
こんな可愛い日本語のリズムに、木を枯らす意味の漢字。考えたやつは、きっとすごく変なやつで最高。
美しい絶望に溺れた。
ああ、もうどうにもならない。
月明かりが水面に反射してゆらめいて
あなたがいた世界がその奥にあって
このまま、深く深く消えてしまえるのなら有難いと思った。
大嫌いだと憎んでみても、この世界はご機嫌だ。
私たちはきっと、神様の箱庭のミニチュア。
君はきっと神様のお気に入り、赤いリボンがついた駒。
ほら帰り道に甘い香り。神様たちのティータイム、砂糖入り。