No.245『時間よ止まれ』
時間よ止まれ、なんて言ってる子供を見下ろした。
そんなことがあり得るわけないのに。
そもそも時間を止めて何になるの。
時間が止まったって過去に戻れるわけでも、過去を変えられるわけでもない。
その時を残しておきたいなら写真を撮ればいい、それだけだ。
ああ、本当に夢も理想もないんだね、私は。
ほんと、嫌な奴だよ。
No.244『君の声がする』
君の声がする。優しくて温かくて大好きな声。
同時に悪意に満ちた声が聞こえた。君を醜いと罵る声。
「醜い……?っふざけるな!!醜いのはお前たちの心だろ!?」
思わず言い返してしまった。すると奴らは矛先を僕に向けた。目が見えない奴が何言ってやがる、と。
「確かに僕は生まれつき目が見えないけど、僕はこれでよかったと思ってる。だってお前らみたいな見た目で全てを決めるような人間にならずに済んだからね」
そう言い返せばそいつらは呆れたように笑いながらその場を去った。
「っごめんね…ありがとう……」
そしたらまた君の優しい声が聞こえた。
「やっぱり君って本当に綺麗だね」
僕がそう言えば彼女は嬉しそうに笑った気がした。
No.243『ありがとう』
私は自分を酷い人間だと思う。
だって「ありがとう」って言葉をすぐに言えないから。
何かしてもらった時に何故か「ありがとう」っていう言葉がすぐに出てこない。
心のどこかで助けてもらって当然とか考えてるのかな?
本当に酷い人間だね。
特別が当たり前になってしまっている今に感謝もせず生きてるなんて、なんで私はこんなんなんだろう。
もういやになった。
No.242『そっと伝えたい』
そっと伝えたい。「君が好きだ」って。
でも僕はそれすら叶わない。
だって僕には声がないから。
「月が綺麗ですね」なんてことも言えないし「死んでもいいわ」なんてことも言えない。
え?伝える方法は声だけじゃないだろうって?
はは、違うよ。伝えちゃダメなんだ。
だって僕の存在は君の足枷にしかならないんだから。
それなら何も伝えず、僕はどこかに姿を消そうかな。
No.241『未来の記憶』
どんなに科学が発展しても未来の記憶が見えることはなかった。
でもたとえ未来の記憶が見えたとしても私はきっと同じ選択をする。
その選択をしないと私は大切なものに出会えないだろうから。