テーマ「狭い部屋」
私の家にはどんなに小さな約束でも破ったらどんな事をされた、言われたとしても反抗してはいけないというルールがある。
幼い頃は何とも思っていなかったそのルールが成長していくにつれて息苦しくてまるで鎖を付けられている様な感覚がして凄く嫌だった。
私の場合、門限だ。
19時までに家に帰らないと祖父により、
暗くて狭い部屋に入れられる。
いつ解放されるかはその時々で変わる為、私にも分からない。
高校から部活に入り、どうしてもやってみたかったから祖父に頼み込んで門限を延ばしてもらった。
だが、今日に限って運が悪かった。
顧問が下級生に対し、指導していて片付けが遅くなりいつもの電車に乗れなかった。
全力疾走で家に向かったが間に合わず、玄関で待ち構えていた祖父により物置として使っている蔵に入れられた。
「あれ程、門限を守る様に口酸っぱく言っておいたのに破るとは…。朝までここで反省していなさい」
強く掴まれていた腕を乱暴に離し、蔵に押し込められて声を発する前に扉を閉められ、鍵を掛けられた。
そのまますぐに足音が遠くなり、静かになった。
朝までここに居るなんて…嫌だなぁ〜。
昔からここに入れらてるせいで狭い部屋苦手なのに…。
こうなっては父も母も助けてくれる人は誰もいない。
この家では祖父がルールだからである。
暗くて…何も見えないな…。
部活の後だからお腹空いたしお風呂にも入りたい…。
あのお説教さえ無ければギリギリ門限守れたのに…。
ついてないなぁ〜と思っていると幼なじみの男の子が蔵の小さな窓から声を掛けてきた。
「おい、〇〇大丈夫か?
お前今日学校出るの遅かったからこうなるんじゃないかと心配してたんだよ。
俺に声掛ければバイクで送ってやったのに…」
少し怒った様な声をしてたがすぐに心配そうな顔になった。
「ごめん…早く帰らなきゃって焦ってたから忘れてた…」
「まぁ…いいけど。それよりもう飯食ったか?ちょっとだけだけど食べれそうなの持ってきたから食えよ」
「まだ食べてない…ありがとう」
幼なじみの彼は私の祖父の事も良く知っている為、こうして閉じ込められた時にはいつも心配して来てくれた。
少し話していると彼は時計を見てから急いで自分の家に戻っていった。
彼に貰ったご飯のゴミを近くの隠せそうな物に入れて私は眠りについた。
翌朝、祖父の足音がして目を覚ました。
「〇〇、今日も学校があるのだから準備をしなさい。くれぐれもこの事を人に言うなよ」
私を蔵の中から出して祖父はいつも通り散歩に行ってしまった。
そこからお風呂や宿題をやり、慌ただしい朝の光景になる。
これが私の日常。
それが崩れたのは私が高校を卒業した日の翌日の事だった。
門限間近の時間に幼なじみが家に迎えに来て「〇〇、しばらくゆっくり出来るから俺と旅行に行こう?確か海が綺麗な所に行きたいって言ってたよね?」
と言い放った。
彼はずっと私が門限を破ったらどのような扱いを受けてるか知っているにも関わらず、だ。
しかも祖父の許可なく外泊なんて許されない。バレたら何をされるか分からない。
恐怖で顔が引きつっていると彼は優しく声を掛けてきた。
「君のおじい様の事なら大丈夫!
俺がもう〇〇と旅行に行きたいから家を空けるって事も伝えてあるし了解も得ているから。早く行こう?」
彼は私に有無を言わせず、強引に車の中に押し込め運転手に出すように言った。
「何で君がおじい様に許可を取るの?
あの人、よっぽどじゃないと外泊なんて許さないのに」
びっくりしている私に対し、彼は楽しそうな顔をして言った。
「それは、俺が君の婚約者だからだよ。
俺の親、数年前から急速に事業が上手くいくようになって俺も将来経営するのに勉強してるんだ。
そこそこお金持ちになって、俺も最近では稼げる様になってきたからようやくおじい様から君との結婚を許可して貰えたんだ。
ここまで長かったなぁ〜」
凄く嬉しそうな彼を見て私は背筋が凍った様な感覚になった。
彼が私に向けている感情があまりにも重いものだと察してしまったからだ。
「ねぇ…知ってる?
君の家のルールの門限。あれは俺がおじい様に頼んでやってもらった事なんだよ。
〇〇が俺以外の男に頼らない様に、
俺に依存する様に仕向けた。
全然気付かなかったでしょ?」
ふふふっと笑う彼にどこか狂気的なものを感じて言葉が出なかった。
「あ〜やっと〇〇を手に入れられた。
これからもずっと俺のものだよ。大事に大切に愛してあげるから俺以外見ないでね?」
そして恐怖に怯えている私に彼は逃げないように片手で両手を押さえつけて唇を塞いだ。
狂気に満ちた彼に囚われてしまった私にはもう逃げる術など無い。
テーマ「失恋」
彼に私が不安になるって言っても返ってくる言葉はいつも同じ。
「そんなの、君が気にしなければいいじゃん。ただの考え過ぎだよ。俺が好きなのは君だし」
そう言ってからまた携帯に向き合う彼。
二人の時間が取れるのは土日だけなのにいつも彼が気にしているのは別の子。
「もっと〇〇君に会いたいな」
「毎週会ってるじゃん」
「ご飯出来たよ、一緒に食べよう?」
「ん〜今はいいや、後で食べる」
30分後…
「悪ぃー××が一緒に飯食べたいって言ってるから食いに行ってくる」
すぐに上着を持って出掛けてしまう彼。
は?何これ。何で付き合ってるのに会いたいも一緒にいたいも聞いてくれないの?
そこまで頻繁に言ってる訳でもないのに。
どんどん不満が溜まってくる。
「××から連絡来たから電話してくる」
私が居る時にも平気で長時間電話して聞かせてくる彼に嫌気がさす。
「私、お風呂入ってくるね」
ひらひらと手を振りいってらっしゃいと言われてイライラする。
「私、こんなところで何やってるんだろ…」
今の私に彼の特別って言えることなんて…あったっけ?
…ないか。彼は私よりも元カノの××さんの方が大切みたいだし。
押さえつけられない感情を何とか鎮めようと冷たいシャワーを浴びた。
「あ、戻ってきた」
出掛ける準備をしている彼を見て私は嫌な予感がした。
「これからどこか出掛けるの?」
「ああ。××がちょっと会いたいって言ってるから行ってくる。〇〇ちゃん今日も泊まってくでしょ?戸締り宜しくね!」
「は?」
思わず低い声が出た。
それ程に彼の行動が自分には信じられなくて気持ち悪かった。
「こんな時間に女の子から誘われたからって出掛けるって何?
彼女居るのに堂々と浮気って意味分からないし理解できないんだけど」
「はぁ?別に友達だから浮気じゃねぇし。気にし過ぎなんだよ」
「私が嫌だから行かないでって言っても?」
「っち、めんどくせぇ〜な。〇〇なら何時でも会えんだろ。行ってくる」
私の言葉に怒った彼はそのままドスドスと歩きながら出ていった。
あんな態度見せられたら…もう諦めるしか無いじゃん。
あっちから告白して付き合ったのに、元カノの××さんばかり優先して私の事は見向きもしない。
どんなに頑張っても××さんの方しか見ないなら一緒に居る必要無いよね?
私は彼とこれからも付き合っていくことを諦め、置き手紙に彼の家の鍵を添えてポストに入れて置いた。
置き手紙には
『これからは好きなだけ××さんの傍に居たら良いよ。サヨナラ』
翌日、家に帰った彼がポストを見て連絡してきたがメールも電話もLINEも拒否した為、メッセージが届く事は無かった。
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