胸が高鳴る
手は冷え
汗で滑る
落としてはならない
強い熱と光が睫毛を照らす
始まりの合図だ
風になる前の
空気の動き
不用意な息は
寿命を縮める
雷に似た
微かな光と音を
指先で理解する
一つ二つと
火の玉が落ちる
嵐は遠ざかり
やがて凪の予感
勝利の確信に
胸が高鳴る
最後の火の魂が
息をひきとる
不条理
この時代に
この場所に
この身体に
この私に
なぜ生まれたのか
なぜ所有するのか
なぜ失うのか
なぜ死ぬのか
いろいろ考え込んでしまうね
不条理なのさ いつだって
今息を吸い込み 芽生える
今最後の息を漏らし 土に還る
ただ息があって
生きてる感じがする
視線が動き
世界と私が生まれる
暖炉の前で身体を乾かしたら
また不条理の中を歩いて行こう
泣かないよ
乾いたスヌーズ
泥のような布団
笑顔のための薬
一触即発の車内
上司がキレるツボ
上意下達の檻
硬直した首
目の奥の痛み
残業の連鎖
シンクの皿
排水口のカビ
自分の匂い
因果応報
一切皆苦
未来永劫
怖がり
純度100%の暗闇
怖がりな私は動けない
恐る恐る進む
本当の手探りを知る
手に触れるもの一つ一つに
研ぎ澄まされる
冷たさ 硬さ
ザラザラツルツル
公園にあるもの
部屋にあるもの
感覚と概念の突合
温かさ 柔らかさ
しっとりふわり
人の手の信頼感
握れば導かれる
対話の原点
音もまた触覚だった
ものの位置と手触り
声は綿あめのように
安堵させる
暗闇を抜けると
目に映るものは
物ではなかった
悉く光だった
星の対話のような
音が聞こえた
もっと知りたい
好きなドーナツは?
得意な歌は?
やってたスポーツは?
最高得点は?
使ってるシャーペンは?
子供の頃のあだ名は?
覚えてるシーンは?
湯船の温度は?
最寄りの駅は?
下の名前は?
最初の一口は?
足のサイズは?
視線の先にいるのは?
帰りが遅かったのは?
似ていないのは?
喋らないのは?
シートの角度が違うのは?
さっきの着信は?
知りたくなってしまうのは?
聴きたくないのに訊いてしまうのは?