「もう秋か〜…」
「そうだね」
学校からの帰り道、私は友達の夏葉と他愛もない話をしている。
「なんだかちょっとさびしいね」
「えぇ〜?いいじゃんいいじゃん!!雪菜は冬が誕生日なんだからもうすぐってわくわくするじゃん!!」
「それは夏葉だけだよ…」
「そう?」
私の誕生日は12月。だからこの季節はわくわくする。普通は。
けれど、私は違う。
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「あら、冬花さん!そのお腹ってもしかして…赤ちゃん?」
「はい、そうなんです」
「性別ってどっちなのかしら?」
「女の子です」
「あらまぁ〜元気に生まれてくれるといいわね♪」
「はい。ありがとうございます」
ご近所さんのおばあさん。いつもいつも話しかけてきて正直うっとうしいけど、異変に気づいてくれるのはいつもこのおばあさんだからなかなかこの関係を崩せない。
「名前…何にしようかな…」
今現在、私はこの子の名前を考えている。
「今は秋だから…秋葉…それとも紅葉(もみじ)…とかもいいな〜…」
そう思いながら家の近くをぶらぶらと散歩していた。
今の私の気分は幸せだ。周りが私のことをよく見てくれていて、空気もおいしい。なによりこの暖かさがいいのだ。
…………けれど、神は私を幸せにはしてくれない。_______________________
「はぁ〜…」
「なに?ため息?」
「いや、なんでもない…」
「ふ〜ん…?」
「それじゃあ私帰るね」
そう言って私は夏葉と別れた。これ以上一緒にいても夏葉を嫌な思いにさせるだけだ。
家に帰って靴を脱いですぐに自分の部屋に走った。
「またこの季節が来たよ…お父さん、お母さん…」
私の親は私が物心つくまえに空へ旅立った。
父親は私が母のお腹にいる時、仕事が忙しすぎてストレスで旅立ち、母親は私の散歩の途中、信号無視の車に轢かれたそうだ。母子ともに危険な状態だったが、母が私のことを守ってくれた…んだと思う。その理由として今私は生きている。
「早く…私も…」
そう何度も思った。けれど…
「あなたは…絶対…生きな…きゃ…だ……め……」
という母の言葉があって私はなかなか旅立つことができない。
この言葉を聞かされたのはまだ赤ちゃんのときだがなぜか覚えている。
「…」
私は窓越しの紅葉を見て、なにかを思い出した。
「紅葉…」
急いで棚を探る。
「確か紅葉って…」
そうだ。お母さんが生きている時、つけようか考えてくれた名前だ。
そうだ…私の名前は…雪菜は…あの近所のおばあさんがつけてくれた名前だった。
「あっ!」
私の部屋にはお母さんが書いた日記がある。
私のことや、お父さんのことをたくさん書いていた。
「やっぱり…」
お母さんの日記にはこう書いてあった。
✎あの子の名前は何にしようかと迷った日もあった
けれど、やっぱり紅葉にしよう。
秋に生まれる予定の子だからあってるよね!!
「…っ…」
事故のせいで実質冬に完全体として生まれてしまった私だが、本当は秋に生まれる予定だったらしい。
「お母…さん…」
つらくてつらくて、なにかをはきだしたかった。
だから私は、スマホを取り出して、
「日記に書こう」
とアプリを開き、今日のことをどんどん書いた。
「もう…大丈夫…」
と自分に言い聞かせた。そう言い聞かせないと私が私でいられなくなるから。
「お母さん、今、秋だよ」
そうつぶやき、部屋を出た。
秋は嫌いだ。けれど不思議と変な気持ちにはならない。
2024年 9/27 (金) 紅葉