シイ

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2/17/2023, 8:32:26 AM


「まあ、別にええけど」


目の前であいつがうれしそうに微笑んでいる。

去年の、福岡旅行に行った時だ。
自分より遥かに高いタワーに、なぜだかすごく感動したようで、
きらきらとした笑みを浮かべていた。

この笑顔をじっと見ていると、頭がぐらぐらしてきて、無性にうずくまりたくなって、思わず棒立ちで舌打ちを漏らした。

そこに、横から知らない男が声をかけてくる。


「この度はお悔やみ申し上げます」
「……」
「侑斗、挨拶しなさい」


数年振りに会った母が、いつの間に横にいたのか、俺の腕に触れる。仏像のような堅い顔が煩わしく、居ても立っても居られず、俺はその場から立ち去ることにした。


「侑斗!どこ行くんや」
「タバコ」
「あんた、こんな時にええ加減に」
「うっさいわババア」


反抗期、そう言われるのは癪だ。だって、こいつらと仲良い時なんて一度もなかった。今までも、これからも。今日だって、嫌な気持ちを抑えやってきたと言うのに、あの時とこいつらは何も変わっていない。ほんまに、ずっと気色悪い。

こいつらも。葬式に来てるやつらも。あいつを見送る気持ちも、悔しい気持ちもないやつらが、こぞって幽霊な顔をして俯いている。そんな顔して、何が楽しいのか。ああイライラする。気持ち悪すぎる。お前らが死ねば良かったんや。


飛び出した外は、室内に似つかわしくない、陽気な世界だった。能天気な太陽がつまらない俺を照らそうとする。それすらも、うざったらしい。

タバコをポケットから取り出し、壁沿いに腰を下ろす。なかなかライターが着火せず、痛くなるくらい横車を擦る。しかし付くことはなく、俺は苛立ってライターを放り投げる。


「もうええって、ほんまに」


あいつが死んでからずっと気分が悪い。解決することのないわだかまりが、ずっとずっと、不快で。


「お前、医者になる言うとったやろ、アホ」


頭が重くなって、地面に顔を向ける。ねずみ色のコンクリートが悲しそうに小さな染みを作っていた。


誰よりも頑張っていた俺の弟は、一昨日この世を去った。