終わりにしよう。
その言葉に君は一体どんな感情を抱くのだろうね。
愛する人との別れ?
それとも、始まりへの予感?
絶望?
救済?
幸福?
未来?
過去?
私は、そうだな。
思い付かなかったから、その言葉を声に出してみると自分の声には聞こえないくらいの冷酷な声が部屋に響いたよ。
それでもね、何の感情も湧き上がりはしなかったんだ。
ただ『凄い冷たい声が出たなぁ』くらいでさ。
自分で言うのも何だけど、これでもかなり声に温度がある方でね。
感情が声に出やすいっていうのかな?
つまらない時は心底つまらなさそうに相槌しちゃうし、気になる話題には凄いワクワクした感じで喋るみたいで、感情が筒抜けだなって友人に言われたこともあったくらい。
あ、ごめん、脱線しちゃった。
ともかく、声に出して発言すればそこに何かしらの感情が生まれると思ったの。
何も浮かばなければそれはそれでそういった声が出るし、何も感じなければそれはそれで悲しいけれど「感情終わっとんのか〜」ってセルフツッコミして終了ってね。
だって、何も感じなかったのも「私」だから認めるしかないじゃない?
……でもね、私が発した声には確かに感情が乗っていた。
胸を焦がしていた熱が瞬時に冷めるように冷たい声音が響いたの。
それでいて次に頭に浮かんだ言葉が『凄い冷たい声が出たなぁ』だって。
それで分からなくなっちゃった。
私は一体何なのかなって。
まるで全てが無で覆い尽くされてるみたい。
たった一言の台詞にも情緒がぐちゃぐちゃに掻き乱されることもあったはずなのに、この襲い来る非現実感は一体何?
嫌だ、嫌だこんなのは嫌だ耐えられない。
この世の全てが無駄事だと誰かが囁く。
違うのに、私は世界が色に溢れていることを知っているのに!
無駄なんかじゃない!
世界はこんなにも楽しいことで満ちているのに!
知っているのに、知っていたはずなのに――!!
この世の混沌から目を逸らすことなど出来やしないのだから
この世は全て映写幕に映し出される虚像なのだから
さぁ、終わりにしようじゃないか
#終わりにしよう