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10/18/2023, 12:34:18 PM

『くしゅっ...』
少し肌寒いこの頃
カフェの近くの公園のベンチでわたしは本を片手に
幼なじみを待っている。
少し待ち合わせの時間に早く来すぎたみたいだ。
コートのポケットに入れていたスマホが震えた
確認すると
『すまん少し遅れるかも』
と一言どうやら道路が渋滞してなかなか進めないらしい
わたしは
『わかった。気をつけてきなよ』
と返信しスマホをポケットにしまった
とりあえずカフェに入り温かいコーヒーをひとつ頼み
公園に戻ろうとしたところカフェの入口に
金木犀があった。
少し強めの柔和で甘い匂いが鼻をくすぐる
幼なじみが好きな花でよく
金木犀の香水を買って付けていた
わたしも金木犀の香りは好きだった
小さい頃に大喧嘩して数日間ずっとくちを
聞かなかった日が続いたある時のこと
幼なじみは『ごめん』とぶっきらぼうに言い
金木犀のドライフラワーをくれた
あの時のことは今でも覚えてる
そんな思い出に浸っているとき、ふと腕時計を見ると
待ち合わせの時間が迫っていた
わたしは早歩きで元の待ち合わせ場所に戻ってきた時に
幼なじみの彼も汗をダラダラ流し荒い呼吸をして走ってきた
『すまん..はぁ...時間ギリギリセーフ?』
『残念1分遅刻かな』
あんなに遅刻しないって言ったのにと意地悪く笑って言えば彼は苦笑いをし
『.....1分見逃してくれません?』と言った
『うーん、新作のパフェを奢ってくれるなら許してあげなくもないかなー』
『この間も特大パフェ食べてたろ、太るぞ』
『可愛い彼女になんてこと言うのよー!』と彼を軽くポコポコ殴ると彼はいてっと言いわたしをなだめるように優しく頭を撫でながら
『もう彼女じゃなくて奥さんになるだろ』と言った
そうわたしたちは結婚するのだ
これから市役所に行き婚姻届をだしにいく
彼はわたしの手を優しく握り歩き出す
わたしも握り返す
彼から金木犀の匂いがふわりと香る
澄んだ秋の空と金木犀の匂いはわたしたちの幸せな未来をつつんでいた