【光と霧の狭間で】
にやりと笑う君が見えた。
小走りで近づくと、幻覚のようにすっと消える。
声だけがスピーカーを通したようにぼんやりと聞こえた。
「たすけて、くれますか」
徐々にはっきりとしてくる声。
「どうしたの」
「たすけて、くれるの」
周りを見回す。
「手を伸ばしてみて」
手を伸ばすと柔らかい手が触れた。
「ありがとう」
【愛ー恋=?】
「愛してる」
恋人から言われたその言葉に妙なひっかかりを覚えて、わずかに首をかしげた。
「なんで?」
「……え?」
「今まではさ、『好きだよ』って言ってくれてたじゃん。だから、なんで?」
残念そうにため息をついて、視線を外す。
「……なんとなく、じゃだめ?」
耳がほんのり赤く染まっていた。
「好き、だけじゃなくて、愛してるって思った。だから……」
「……ありがとう」
やっとそうつぶやくと、そっと抱きしめられた。
【梨】
「梨、買ってきたんだけど、食べる?」
「え、食べたい!」
わかった、と言ってキッチンに引っ込んだ彼。
冷蔵庫から梨を取り出して、果物ナイフで軽やかに切っていく。
「切れたよ」
「ありがとう」
いただきます、とつぶやいて一切れ手に取る。
シャクっといい音がして、果汁が溢れ出した。
「おいしいね」
【LaLaLa Goodbye】
「ばいばい」を言うのすらためらうようになった
"別れ"が言葉になるのが悲しくて、つらくて
言葉を出すことへのハードルが高くなった
どう思われるのだろう、と
共感されないのだろうか、と
でも、共感なんて考える自分がダサくて気持ち悪くて
そんな自分の言葉なんていらないと
どんどん口に出さなくなっていった
書けるのに、口には出せない
【秋恋】
金木犀の香りを一緒に楽しみたいのは誰だろう。
紅葉を一緒に見たいのは誰だろう。
秋刀魚を一緒に食べたいのは誰だろう。
文化祭に一緒に行きたいのは誰だろう。
布団の中でぬくもりを分け合いたいのは誰だろう。
朝一番最初にあいさつしたいのは誰だろう。
その人がきっと、愛したい人。