【もう一つの物語】
たまに、ぼんやり考える。
女じゃなくて、男として生まれて。
長女じゃなくて、末っ子として生まれて。
本だけじゃなくて、ゲームも与えられて。
田舎じゃなくて、都会に住んでいて。
塾に通うんじゃなくて、外で楽しく遊んで。
三次元じゃなくて、二次元を好きになって。
美術部じゃなくて、テニス部に入って。
国語じゃなくて、数学が得意で。
隅っこじゃなくて、中心にいて。
図書館じゃなくて、カフェに行って。
彼女じゃなくて、彼氏ができて。
︙
たまに、ぼんやり考える。
別の生き方もあったのかもなって。
たった一つ、違うだけで。
無数の道が繋がってるんだ。
fin.
【暗がりの中で】
いくらリストカットやODを繰り返しても、消えない気持ち。
病み曲に共感しても、変わらない気持ち。
声を殺して涙を流しても、溢れる気持ち。
間違っているとわかりきっていても、止まらない。
きっと当てはまる言葉なんてない、言いようのない不安。
自分が何者か、ぼんやりともやがかかる。
そんな夜を乗り越えると、いつも通りの朝が広がっていた。
はしゃいだ小学生の声。
炊きたてのお米とみそ汁のにおい。
急かすような踏切の音。
カーテンの端からこぼれる朝日が明るい。
大丈夫、と小さくつぶやく。
リストカットの跡がじんじん痛んでも、不安は薄らいでいた。
制服に袖を通して、顔を洗う。
リビングのドアを開けると、
「おはよう」
いつもの声が聞こえた。
fin.
【紅茶の香り】
紅茶は、大人の飲み物だと教えられた。
独特の香り、透明感のある薄茶色。
どれをとっても、僕がいつも飲んでいる麦茶とは違っていた。
大人になってからね。
母が飲む紅茶をこっそり飲もうとすると、母は決まってそう言った。
僕も、早く大人になりたいと思った。
fin.
【愛言葉】
スマホのロックを外すときは、6桁の数字を入力する。
どの数字だったっけと思う間もなく、指が勝手に動く。
今の数字は、恋人の名前を数字に直したもの。
これが、私とスマホの"愛言葉"。
fin.
【友達】
友達か? 問いかけられる 焦燥感
既読をつけたら 返さなきゃだめ?
既読をつけたら、すぐ返さなきゃって気持ちになると思います。でも、すぐ返さなきゃいけないんですかね?すぐ返す人=いい人って思ってません?すぐ返すかどうかで人の価値を決めているような、そんな空気を感じるときがあります。相手だって、後悔しない言葉を選んでいるだけかもしれません。あなたを傷つけないために。そう思ったら、待つのも苦じゃないでしょ?