◤勇者の裏側◢
「物資の搬入は?」
「終わってます!」
「明日の分の御者は?」
「手配しました!」
「雑魚モンスターの間引きは?」
「担当の者が現在行っております!」
「早く終わらせろ!」
これは魔王討伐の裏側で働く人たちのもう一つの物語
テーマ:もう一つの物語
◤君の香り◢
家に帰れば紅茶の香りがした。それは今日も私の心をくすぐるあの香りだった。香りを胸に沈めてカップを持つ。少しだけ渋いストレートティーはまるで私と彼の近づかぬ関係のようで心の痛みに優しく染みていく。少しずつ少しずつ重くなって、彼のようなこの紅茶を気配に感じながら一時の恋心に浸った。
明日はお見合いの日だった。
◤その果てを探して◢
どこまでも続く青い空を見上げて、その果てを探してみたくなった。
長い長い旅だった。海を渡った。色んな島に行った。知らない人々と出会った。そして別れまた進んだ。
一周して戻ってきた。空の果ては分からなかった。でも、たくさんの面白いことがあった。だからまた、海に出ようと思う。
◤日記◢
現在学校で制服の移行期間でして、冬服と夏服両方着れるんですね。しかし、今年は去年より寒くてずっと冬服を着ているので、夏服はしまってしまおうかと思っております。皆様はどうでしょうか。おそらく、何か羽織り始めていることと存じます。衣替えの思い切りがなくずるずると引き摺るのが例年の流れではあるのですが、今年は思い切ってみようかと。ということでここで一句。
秋風に 火売る夏服 衣替え
テーマ:衣替え
◤喉の奥より◢
痛みと苦しみというものは、心より与えられるものであると彼の者は言った。屈強な者に拷問は効かねど、尋問は効くと。人質や仲間を使って脅せば落ちる者は落ちる。痛みで落ちるものは心が弱いからと。声が枯れるほど叫べば助けて貰えると思っている甘えであると。
慣れぬことをしております故、どうか許されよと目の前の男は言った。彼の者の言う通りであれば、俺のこの心はどうなると言うのだろうか。痛みも、仲間への心もない俺は人ではないということだろうか。それならば、この運命もあまんじて受け入れよう。味方に見捨てられ、敵地のど真ん中で拷問を受け続けるというこの状況を。