「あー、このまま話してても埒があかない!頭冷やしてくる!」
「はぁ!?待てよ!」
背中を追ってきた声に一瞬迷って立ち止まる。今までぎゃんぎゃん勢いをぶつけ合ってきてお互い折れなかったのだから続けたところで意味はないのに。
ぎろりと睨み付けながら振り返ると、彼もまた苛ついたような態度で立ち上がっていた。
「遅いから俺が出る。朝まで漫喫にいて帰らねえから鍵開けるなよ!」
ぽかんとする私に早口にそう言いながら、彼は私を追い越して出ていく。怒ったように「続きは明日な!」と添えるのは忘れずに。
なんと、まあ。がちゃんと玄関の施錠の音を聞きながら、溜め息を落とした。
"終わりにしよう"
「私、あの頃はあなたが好きだったの」
特別な秘密を打ち明けるような声と笑みで、俺はこの長年の想いがもう届かないことを知った。
"失恋"
ぎゅ、と抱き着けば途端に鼓動が速くなった。何ともありませんというようなしれっとした顔をしているくせに、耳は赤くて視線は絶対に合わない。
「ふふ、身体は随分正直ね」
「言い方よ」
ああ、かわいいひと。
"正直"
「てるてる坊主を毎日大量生産したら梅雨って来ないまま滅するのかな」
「そんなに梅雨に恨みあんの?」
てるてる坊主も荷が重いだろうよそれは。
"梅雨"
あ、と気付く。物販列の折り返しに並んでいた俺と同じツアーTシャツを着た女の子は、いつも教室で物静かにスマホを構っている同級生だった。整列バーを一本挟んだだけの距離は、話しかけるには難しくない。けれど、このバンドが好きだったことを初めて知ったし、そもそも話したことだって必要最低限な連絡事項くらいしかなかった。
会場中の多くの人が着ているのに、そんな距離感のクラスメイトが自分とお揃いのTシャツなのが何故だか妙に落ち着かなくて。慌てて見なかったフリをして、帽子を目深に被り直した。
"半袖"