『ごめん!仕事長引いちゃって。うん、大丈夫!
なるべく早く着くようにするから』
急いでる彼の声と息切れが
スマホのスピーカーから聴こえて来る
『あと、プレゼント…!
すげぇ考えて準備してたんだけど
店に引き取りに行けてなくて。…本当にごめん』
焦ってる声も
謝ってくれる気持ちも
「ありがとう。…嬉しいよ」
全てが
私を想っての"プレゼント"
#プレゼント
小さな冷蔵庫には
コンビニで買ったかぼちゃプリン
一人暮らしのバスタブにも
柚子の入浴剤
「母ちゃんの恒例行事って身に染みてるよなー」
ふんわり香る柚子に
母の笑顔を思い出す
「年末年始は帰ろうかなぁ…」
ぼんやり考えていたら
いつもより長く湯に浸かっていた
#ゆずの香り
「えーっと"おおぞら"君…かな?」
「いえ違います。"そら"です、おれの名前」
「あ、すみませんっ」
陰キャで目立たないタイプも手伝って
繰り返される名前の呼び間違い
ギリッと奥歯を噛む横で
父が囁いた
「んとねー。"輝来"って書いて"きらら"にしようかと
ママとすっごく迷ったんだよね」
こめかみがピクッとしたのは
仕方ないよねぇ?
#大空
非常ベルが鳴り響く
サンタの格好をした俺は子供を抱えて走っていた
「くっそー!絶対に死なせねぇぞっ」
クリスマスに火事だなんて有り得ねぇ…
イルミネーションを台無しにする黒煙と業火に
舌打ちする
「お兄ちゃん…怖いよぉ」
「大丈夫だよ。パパやママに喜びを届けるのは
サンタクロースの仕事なんだから!俺を信じてくれ」
突破口はもう見えている
あと少しの辛抱だ
#ベルの音
「昨夜は帰りが遅くなってごめんよ?
ほらほらぁ、きみの好きなケーキを買って来たから…
機嫌直して?…寂しかったでしょ?なーんて♡」
可愛らしくウィンクする旦那に内心げっそり
"寂しさ"の押し売りをするとき
大概は『疚しい何か』があると決まってる
「寂しかったーって言わせたいなら
昨夜はどんな女性(ひと)と浮気してたのか教えて?」
「え…。何で知ってるの!?」
それ見たことかー!!(怒)
#寂しさ