恋を知らない生き方をしていたら
どんな世界が
見えていたのだろうね
涙を知らない一生を
まっしぐらに淡々と歩いていた
そんな景色かな
何にしても
つまらない物語になっていたと思うよ
#もう一つの物語
暗がりの中で天使と悪魔が喧嘩する
「んもう!明日から頑張るんだぞ?」
頬を膨らませて譲歩したのは天使だった
わたしは「ちょっとだけよぅ♡」と言いながら
深夜の冷蔵庫からプリンを取り出した
ダイエットの天敵は
気持ちを明るくさせる天使なんだよね
#暗がりの中で
幼い頃、アールグレイの紅茶が苦手だった
鼻にスッと入ってくるような無遠慮な香りが
好ましく思えなかったんだ
「お洒落で落ち着く香りね」
レトロなカフェ
二人掛けのテーブル席にパンケーキと紅茶が並んでいた
揺蕩うのはアールグレイの香
彼女の好みだった
「そうだね」
相槌を打ちながらティーカップに口を付ける
"ベルガモット"
気持ちを穏やかにする原料なんだそうだ
好きになったのはいつからだ?
ふと考えて
彼女とファーストキスをした日を思い出した
-2nd story-
紅茶の香りが
スコーンを作りたいと思わせたのかな
それとも?
スコーンが食べたい!て思わせた食欲の秋が
紅茶を淹れさせたのかな
「あ〜美味し♡」
面前の愛しいひとがクスクス笑っている
#紅茶の香り
結婚して幸せに過ごしてても
いつかは
マリッジリングを外してお墓に入るでしょ?
だってお別れは付き物だもん
だから
マリッジリングをお互い外すときには
『愛言葉』を決めない?
「新婚生活はじまったばかりなのに?
それ決めるの今〜?」
「うん」
帰り道、彼女は笑いながら金木犀の前で振り返った
「"金木犀"が愛言葉ね。
見る度に思い出す香りでしょ?」
皺の深まった手のひらに
今年も忘れられない金木犀の香りと愛言葉が
溢れ落ちていく
#愛言葉
「友達だから相談できると思ってるんだ。
訊いていい?」
バニラシェイクを飲もうとして止める
「いいけれど、どんなこと?」
「好きな子がいてね、
その子に好きかどうか訊いてみて欲しいんだよ」
「えー…他力本願?」
ぷらぷらするストローを指で弄りながら
目が泳ぐ
「他力本願じゃないよ。
今ので確信したから相談に乗ってよ。
"友達"から"彼女"なるつもりはないかな?てさ…
君の気持ちに」
目の前で舌をべーっと出す
今から"元友達"になった"彼氏"に笑った
#友達