夕飯の食卓に
貝類と甲殻類がどーんと並べられていた
「さ、いただきましょ」
つん…とした母の声と始まる黙食
他3人は食べる前に息を飲む
(誰だよ、母さん怒らせたのー!)
貝のように口を閉ざし、犯人を探る
開いて中身のない貝殻と
母の好物であるエビやカニの殻ばかりが
皿に積まれ続けた…
#貝殻
『君達の青春は、たった一度だけの人生のきらめき!友情も経験も全てが光り輝く中にある。無駄にしては…etc』
朝礼でアオハルに熱弁を振るう校長先生に
俺、謝るよ
怠く眠気の取れない月曜の朝だし
明日からの定期テスト?
何だそりゃ〜てくらい対策も何もしてねぇ
恋と友情はきのう同時に破局したばかり
俺のアオハルはきらめきとは真逆なんだ
くすんでお先真っ暗なの
-2nd story-
星空を見上げて感極まることがある
大抵は辛いことが心に伸し掛かったときだ
星を眺めたときに
涙が頬を伝う理由が知りたいと思った
「星と涙の理由ねぇ。難しい問題だけど、
星の"きらめき"と心の"きらめき"が共鳴するからかな?」
振り返った彼女は笑った
遥か彼方の星になった彼女の言葉は
未だに"きらめき"を心に遺して、優しく輝いている
#きらめき
些細なことでも、怒って落ち込んで泣く妻と
些細なことでも、喜んで上向きに笑う僕
"相性悪いでしょう?"
よく人から言われることだけど
それは違う
「よーし!今日みたいな日は
大好きなケーキを大人買いして元気出すスペシャルデーだ」
「うん…」
ギュッと手を繋いで、歩幅を合わせて歩く
悲しい事と楽しい事に続く導火線は
同じ一本の線で、仲良く繋がっているんだよ
#些細なことでも
線香花火の火種が"ぽとん"と落ちるとき
気持ちまで"ぽとん"と落ちるから
花火セットの最後に
線香花火の束を残すのが嫌いだった
「蕾、牡丹、松葉、散り菊…」
隣にしゃがむ甚平姿の彼が
大きな手に小さな線香花火を持ちながら、はにかむ
「甚平の雰囲気に合う花の名前だね」
バケツの水に"ぽとん"
燃えカスを落としながら応えた
「いや、そうじゃなくてさ
線香花火の火種には花を咲かす順番があって
花束を作ってる気持ちになるなーって」
思いも寄らない言葉に"ぽとん"
心に温もり
気持ちはゆらり暖色に灯された
#心の灯火
夜景が自慢のレストランで君とディナー
「幼稚園の頃は向かい合わせでお弁当食べてたのにね」
素敵でお洒落になったね、と
君はクスクス笑う
右のポケットに隠しているのは
ビスケットではなくてエンゲージリングだ
(ブブブ…ブブブ…)
左のポケットで
スマホが幾度も振動している
恐らくは仕事のLINEだろう
いつまでも子供じゃない
立場的に
開かなきゃならないのはわかっていた
#開けないLINE