「起きなさい!」
と、耳を差すご近所のモーニングコール。
昨年まではカレンダーの黒文字以外で聞こえていたものだが、すっかりご無沙汰になっていた。
たしかおとなりさんのご子息が中学校を卒業して、高校進学と同時に聞こえなくなっていたのだったか。しかし今は夏休み、遠くで一人暮らしか寮生活かはわからないがきっと帰省中なのだろう。
「起きなさい!!!」
ふふふ。本日三度目のコールがかかった。毎日午前十一時から十分おきの、ある程度正確なアラーム。
よし、久しぶりに早めの昼食としてみようか。
海のきらめきは美しいだろう。河面のきらめきは美しいだろう。
凪いだ湖面もある種美しくはあるが、キラキラと強い光を放ちまばたきの間に変容するきらめきとはまた違うもの。
海や河が反射する光がなぜ斯様に目を引くのか。それは波が起こっているから。
光があれば波が強いほど多くのきらめきの欠片を産む。波を恐れず光を探しなさい。きっとあなたが産み出すきらめきはいつか誰かの目を貫くだろうから。
光が差す方を向きなさい。光に向き合うほど強く反射するから。
君は炎に質量があると思うかい?
ふむ、酸素が燃焼して二酸化炭素になるエネルギー熱をむりやりこじつけて質量に変換すればエネルギー保存ができる、と。ふふ、面白い考えだね。しかしエネルギー保存の法則は総エネルギー量が変化しないということだと思うんだけどねぇ。
しかし、燃焼エネルギーが大きいほど仮に質量に変換した際の重量はすさまじいものになるというわけだね。ふふ。僕はその考え好きだよ。
だからさ、他人を押し潰すことができる位の質量を持った心の灯火を……。
いや……火を灯すのであればわざわざ重さに例えなくてよかったかもしれないね。
……えっと。あの、とりあえず。相手を焼き尽くすほどの!相手を押し潰せるほどの!エネルギーを持って!がんばってくれたまえ!!!
喧嘩をした7日後。3日前に届いたLINEの通知を消せないでいる。
あなたの携帯番号には繋がらないのにたくさんの電話がかかってくる。なんであなたからの連絡はLINEのひとことで、他の誰かからだけ連絡があるの。
なんて詰られたけれど、僕からの電話を着信拒否していたのは君だろう。LINEの既読だって付かないからどうにかして話をしたいと思ってみんなに協力してもらったんだ。
まさか急に君が訪ねてきてくれて、「生きてる!?」なんて詰め寄られるなんて思っていなかったけれど。だけど君が、僕と連絡が取れなくなっただけで、僕になにかあったかもしれないと思い込むだけでそんなに取り乱してくれるなんて嬉しいよ。
……3週間前のこと、ごめんね。まさかLINEの確認ができていないだけでそんなに怒るなんて考え至らなかったんだ。友人に助言を貰って、それから君への謝罪を考えるのにあれだけの時間がかかってしまってごめん。でも正直、24時間スマフォを見ていなかっただけで数百件の通知があったのは恐ろしくてアプリを開くのに勇気が必要だったかな。
裏返しになったままの掛け布団。しっかり片付けろ、と叱るべきだと指をさされる光景かもしれない。しかしこれは我が家の不器用が頑張った結果なのだ。やるからにはしっかりやりきらないと意味がない、なんて主張も理解はできる。めちゃくちゃにされている方が手間が多くなってしまうのは確かに事実。しかしこれは夜、共に布団に入りたいというアピールのベットメイクなのだ。あえて裏返しなのではなくて表裏すらわかってないところまで愛おしいし、自分以外の誰にも伝わらない二人だけのメッセージなんてたまらないだろう。今日はホットカーペットの電源をいれなくてもよさそうで今から楽しみだ。