闇夜の嵐と「 」の中で

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10/6/2024, 1:22:52 PM

過ぎた日を想う

眠る。

急に重力が何倍にもなったように、身体が沈んでゆく。おもたい水のようなものの中にいる気がして、またか、と嫌な気配がする。濁流はごうごうと、強く、深く、私を押しのけようと体あたりをしてくる。それでも私は言葉を発することもせず、ただただそこにいる。渦の中に飲み込まれて、ずっと海に飲み込まれているようだ。

眼を開けば、きっとそこはいつの日かの記憶の中だ。射影機はカラカラと廻り、映画が写すモノクロは、鮮やかな色彩を映し出す。マイクで拾ったわけでもない音は、遠くの時計の針まで鮮明に聞こえてくる。それはひとつの道のように長い、長い物語だ。私が見たすべてが、何万年も巻き戻って、また再生される。主演は私、出演者はその他のすべて。
いつも隣で笑っていた彼も、その辺を歩いていた名無しの通行人も、みんないつかと寸分たがわず動き出す。

私は、自分で目を覚ますことは出来ない。
今、生きている、未来の出演者の誰かがこの上映を止めるまで、私が今を生きることは無いのだ。

さあ、
眼を開けろ。
眼を逸らすな。
眼を凝らせ。

逃げることは許されない。
私が、すべてを受け止めるまでこの上映は終わらないだろう。
何度も、何度も、何度も。
私を渦の中へと引きずり込む。

いつか、この眼が視えるようになるまで。