狭い。私は天井を見上げてそんな当たり前のことを思った。
狭い。寝転がれる場所なんてベッドくらいしかないし、調子に乗って人をダメにするソファなんて買ったらもう足を踏み入れられる場所が無くなったし。
気づいてはいたが、改めて見るとこんなに狭いとは。まるで天から人を見下ろす神様になったつもりで私は他人事のように思った。
あの人の物がほとんど無くなって私だけの物になった、この部屋。あの人の物はもう無くなったのに、まだ足の踏み入れられる場所は狭苦しい。
どんだけこの部屋は狭いんだ。テーブルに置かれたひとつのコップを見ながら私はそう自嘲した。
朝日が、私を照らしている。
あの人はもういない。
あいつはもういない。
"彼"はもういない。
朝日が、うざったるい。
過ぎ去った事象に思いを馳せる気など無かったが、ものがなくなっても尚狭いこの部屋を見続けると自然と思い出してしまっていた。
...ああ。
あいつがいた時、この部屋を狭い、だなんて思ったことあったっけ。
人が1人いるだけで狭いこの部屋なんて、2人なんていれば狭い所の話では無いはずだ。
床に座れないなら、ベッドに座って。テーブルに物が置けないのならキッチンに置いて。
ご飯も、ベッドの上で食べて。
そして、夜はベッドで一緒に眠って。
ベッドで笑って、ベッドで泣いて。そしてベッドで慰めあって。
ほとんどの時間をベッドで過ごしていた。そこしか、まともに座れる場所が無かったからだ。
あまりにも不便で、心もとなかった。だけれども、それでも、この部屋が『狭い』だなんて感じなかった。
なんでだろう___
...ああ。
そして私は目を見開いた。
そうか、この部屋を『狭い』だなんて感じなかったのは
『安心』があったからなんだ。
部屋が気になるのは安心がないから。
安心があれば、部屋なんて気にもならないから。
狭いと感じるのは、『安心』が無いから。
私は、静かに泣いた。
朝日が目にかかって眩しいから、を自分の言い訳にして。
一つだけのコップが鈍く此方を睨みつけていた。
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お題『狭い部屋』