『物憂げな空』
ベランダで煙草を吸う
昨日から引き続き天気は快晴、雲のひとつも浮いてやしない
つまらん空だ、気に食わない
俺がこんなに悩んでいるのに、お前は雨雲ひとつもないってか?
能天気な面しやがって、腹が立つったらありゃしない
空に向かって煙草の煙を吐いてやる
綺麗な青に灰がかかった
瞬きの曇天にほくそ笑む
「ざまぁみろ」
これで少しは気が晴れた
明日は雨でも降らせてみせろ
『小さな命』
私の命には生まれた時から寄生虫がついている。
ソイツの名前は人生というらしく、生きている人間の命には必ず寄生しているんだそうな。
私の命を勝手に食べては成長していくソイツ……当たり前だが憎らしい。
けれど退治する方法が無いというのだから仕方がない。
周りの人間は既に割り切っているのか、逆にソイツの大きさで競い合って楽しんでいる節もある。
……まぁ、それが正解なのかもしれない。
どうせ考えるだけ無駄なのだし、私も何だかんだでソイツに愛着が湧いてきた気がしなくもない。
自分の命が小さくなっていくのは腹立たしいが、代わりに人生が大きくなると考えれば……それもまた喜ばしい事なのだろう。
命が小さくなればなるほど、人生は大きく成長していく。
急がず焦らずで育ててみようか。
『Love you』 100
私の愛は後追いだ
誰かが愛したものにしか
愛というものを向けられない
自分だけでは判断出来ない
自分の愛に自信がない
花が一輪咲いている
私は何とも思わない
誰かがそれを綺麗と言った
一輪の花に愛が向かった
そこで初めて綺麗と感じる
そこで初めて愛を感じる
誰かの愛が下地にあって
後追いをして愛を重ねる
それは果たして私の愛か?
それが本当に私の愛か?
私一人では感じれない
私一人では信用出来ない
私の愛には主語がない
いつまで経ってもI《愛》がない
『太陽のような』
僕にとっての彼女は太陽
何時だって暖かくて
僕の心を照らしてくれる
……でもね
勘違いをしちゃいけないよ
彼女にとっての太陽が
僕であるとは限らないんだ
悲しいけれど
よくある事だね
『0からの』
「〇〇ちゃんは数字で例えるなら0だね」
放課後の美術室、美術部員としての本分に則って課題の絵を仕上げにかかっていた私に、声がかけられる。
描く事に集中していたから近くまで来ていたのに気が付かなかった。
「……藪から棒に、何の話ですか?」
相手の名前は……知らない、美術部の先輩だった気がするがそれすら不明瞭な記憶だ。
無視をしようかとも考えたが……同じ美術部なら、変に遺恨を残してしまえば後々面倒な事になり得るとも限らない、仕方が無いので対応する事にした。
「私達って話したこと無いでしょ? ていうか、〇〇ちゃんが他の部員と話している所、見たこと無いんだよねぇ……寂しくない?」
「大きなお世話です……話はそれだけですか? それなら早く課題を終わらせたいのですが」
こう言えば大体の人は引いてくれるだろう、イメージは悪くなるかも知れないが、課題をしていたのは事実だ。
「まぁまぁそう言わないで、可愛い先輩ともっとお話しようよ。ね? 良いでしょ? 良いよね? というか拒否権は無いんだけどね! 〇〇ちゃん後輩、私先輩、後輩は先輩の言うことは聞かないといけない、QED」
「無茶苦茶な理論もどきを振りかざさないでください、パワハラで言い付けますよ。……はぁ、分かりました、分かりましたから。話を聞くのでその泣き真似を辞めてください。子供じゃないんですから」
「私は子供ですとも、今でもネバーランドに行けると信じているからね!」
……がめついな、よりにもよって特に面倒臭い人に絡まれた気がする、さっさと話を終わらせて満足させるのが得策だろう。
「それで、何で私は『数字で例えるなら0』なんですか?」
「良い質問ですねぇ(-⊡ω⊡)ゞクイッ」
……イラッとするな私、それでは相手の思うつぼだ。
「それはねぇ…………なんでだったっけ?」
「…………」
「〇〇ちゃん、そんな死んだ魚みたいな目で私を見ないで……! そしてそのまま課題に戻らないで! ごめん、謝るから!」
「…………」
「ね!思い出したから!理由」
「…………」
「無視しないで……!? ほら〇〇ちゃんって何時も絵を描いてるでしょ? 余計な会話もしないで、偶に話すことといえば先生への質問ぐらいじゃない?」
「……はぁ、美術部員なんだから美術室では絵を描くべきでしょう?世間話なら他所でやって下さい」
当たり前だ、学生の本分が学業なのであれば、美術部員の本分は美術活動をする事だ。
そこに疑問の余地なんて無いだろう?
「そうそれ! その考え! 凄いストイックだと思うわけですよ、私は。……だから0っぽいなって思ったんだ」
「……一番大事な"だから"の繋がりが分かりませんが」
「なんて言うかな……こう、誰とも関わろうとしないけど、ストイックで存在感があって美術部にとって大事な〇〇ちゃん。 正の数にも負の数にも属さ無いのに存在感があってとても大事な数字の0……似てない?」
「……いや、別に似てませんが」
「え!?似てるでしょ!」
「いや似てません、そもそも前提がおかしいです。私がストイック……はまぁ、いいでしょう、自覚はありませんが。問題はその後です、私は存在感なんてありませんし、美術部にとって大事な存在でもありません」
どこをどう見てそんな考えに至ったのか理解に苦しむ。
そもそも私は何時も一人でひっそりと絵を描いているのだ……存在感も何も無いだろう、ましてや美術部にとって大事? 意味が分からない。
「……あのね、〇〇ちゃんって絵がとても上手だし、とても楽しそうに描くものだから存在感凄いよ? 〇〇ちゃんのこと尊敬してる部員も多いと思うんだけどなぁ、私もその一人だし……自覚なかったんだね」
「……いや、納得いきません」
「納得いかなくても事実だね!」
「いやいや──」
「いやいや──」
「──?」
「──!」
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……これが私と先輩の腐れ縁の始まりである。