安らかな瞳
惨い死体を見つけた。
死因は不明だが、死後に暴力を振るわれたようだ。
この人は嫌われていたのだろうか。
生前のことを思うと幾らでも同情の念がわいてくるが、そんなこと明日には忘れているだろう。
しかし、時が経っても私の脳みそに貼りついて離れないであろうことがひとつある。
唯一綺麗な顔に焼き付いた表情は、あまりにも安らかであった。
ずっと隣で
あなたの隣には、誰がいるのだろうか。
その座を奪おうなどという、不遜なことをしでかすつもりは毛頭ない。
ただ知りたい。
相棒でも、伴侶でもいい。
あなたはどんな世界で、誰と共に生きているのだろうか。
私がそこにいる資格は、多分ない。けれど……
せめて、あなたの人生に少しでも彩りを与えられる存在になりたい。
私の人生を、彩ってくれた人だから。
愛と平和
愛に満ちてる私の世界は平和そのもの。
けど、一歩外に出たらそこに平和は無い。
桃色の愛がぎゅうぎゅうに詰まっていられるのは、閉鎖的で他人を拒んでいる世界に限られている。
そうじゃない世界って、いつもみんなが争っていたり、隙間風が吹いていたりしている。
別にそれが悪いって訳じゃない。挑戦的な人生もいいもんだと思う。
ただ、それなのに、扉で固く閉ざされた世界を見たことがある。
扉はぼろぼろで、風に吹かれたら飛んでいきそうだった。
月夜
不思議と明かりひとつない街を、私はひとり歩きまわっていた。
ふと見上げた夜空は、息を呑むほど綺麗だった。
思わずスマホを取り出して……しまった。
こんな苦しい毎日なんて、どこにも残したくないのに……
ひなまつり
今日の家には誰もいない。
日が沈み、真っ暗になったリビングで、桃をじゃくじゃくと丸かじりする。
今日は桃の節句だからだ。
私は女の子なのに、親はひな人形とかちらし寿司とか、そういうのを一切やってくれなかった。
だからこんな親不孝に育ったんだろうね、私って。
今年のひなまつりは家に私しかいないので、せっかくだから桃の節句を祝ってやろうという訳だ。
とは言っても、無論うちにひな人形などはない。料理も得意ではない。
ひなあられは友達と食べたことがあるが、あれはまずい。
というわけで、桃を食べることに決めた。