10年後の私から届いた手紙
人生の転機となる日、10年後の自分から手紙が届くと言われている。
それは私の元にもやってきた。
水に濡れた跡のある便箋の中身は、
‘’推しは推せる時に推せ‘’
と書いてあるノートの切れ端だけだった。
待ってて
「私はここにいるよ。待ってるから、早くおいで」
憧れのトップアイドルは、私にそう言った。
私は努力の末トップアイドルの座に迫り、手を伸ばした。
かつての憧れを押しのけて頂上から見下ろす景色は、驚く程に色褪せている。
伝えたい
大好きなA先生へ
先生のことが大好きです。
優しくて、かわいくて、時にかっこよくて……
大好きなE先生へ
先生のことが大好きです。
おもしろくて、かわいくて、時にかっこよくて……
二通の手紙は、かれこれ一時間この状態。一向に進まない。
私にとって先生達の魅力は、この一文に尽きるのだろう。
……うん。
大好きなA先生へ
先生のことが大好きです。
優しくて、かわいくて、時にかっこよくて……
そんな先生のことを、ずうっと推していたいです。
大好きなE先生へ
先生のことが大好きです。
おもしろくて、かわいくて、時にかっこよくて……
そんな先生のことを、ずうっと推していたいです。
この場所で
街全体を見渡せるこの場所。
ここなら、いくら振り払ってもまとわりついてくる紙とサヨナラできるかもしれない。
早速、落ちてみた。
爪先から脳天まで貫く風は、私から無理矢理に紙を引き剥がして置いてけぼりにしていった。身が軽くなり、悟りを得たような気分を感じた。
そこで捉えた景色は、轟々とうなりながら猛スピードで迫ってくるようだった。
直ぐ、私の身に迫り来る運命を感じて息を呑む。
お終い―――
眠る『私』の身体は、間もなく落ちてきた紙に覆い尽くされた。
誰もがみんな
誰もがみんな 生きている
そんなようなフレーズを小学校で聴いた。あっ、「ぼくらは」だったかな?
『ぼくたち生きものはみーんな友だち!ぼくのキライな子にも友だちがいるから、その子もホントは友だち!いつかぜ〜ったいなかよくなれるんだ!』
あの曲を知った日、自由帳にそう書いた。
めちゃくちゃな理論だ。
ただ、そんな世界があったら面白いなと思う。
中学生の時は、ノートの片隅にこう書いた。
『人生なんてむなしい。何をしたって結局は死んで何も残らないのに、どうして勉強をしたり学校に通ったりしなければならないのか。才能のかたまりならともかく、何も残せない凡人が何かをする必要なんてないんじゃないか。』