あなたの笑顔
あなたの横顔
あなたの声
あなたの瞳の輝き
あなたの掌の温もり
あなたの大きな背中
あなたの…
あなたの…
懷かしく思うのは
すべて
あなたのこと
この世では
もう二度と逢えない
あなたのこと
# 懷かしく思うこと(317)
わたしに
もう一つの物語があるとしても
きっとその内容は
現在の物語と
ほとんど変わらないでしょう
どちらも主人公は
あなたとわたし
あなたと出会い
あなたに恋をして
あなたもわたしを
愛してくれる
幸せな日々の連なり
ただ
物語の最後だけは
大きく違って
この言葉で終わってほしい
ふたりは末永く
仲睦まじく
幸せに暮らしましたとさ
メデタシメデタシ
# もう一つの物語 (316)
月明かりも届かないような
暗がりの中で
独り
膝を抱えて蹲る
私の前で立ち止まったり
話し掛けたり
手を差し伸べたりは
しないでください
あなたたちの
優しさや温かさは
十分にわかっています
今はその優しさで
知らぬふりして
行き過ぎてくれませんか
生きる事に疲れた
身体と心を
少しのあいだ
休ませてください
この暗がりの中でしか
涙を零せる場所が
ないのです
今夜だけは
気配を消して
独りになりたいのです
# 暗がりの中で (315)
窓から入る
柔らかな日陽射しと
微かな風
テーブルには
お気に入りの
FAUCHONのアップルティー
本棚に並ぶ
世界文学全集から選んだのは
トルストイの
「アンナ・カレーニナ」
シャーロット・ブロンテの
「ジェーン・エア」か
少し迷ったけれど
学生時代に読んだのに
どちらもストーリーを
まるで憶えていなくて
読み直し
休日の午後
独り時間は
紅茶の香りの中で
豊かに
ゆっくりと
過ぎてゆく
# 紅茶の香り (314)
友達
この曖昧な関係
いつの間にか
自然消滅していても
気付かずにいて
疎遠に…なんて
よくある話
友よ
この曖昧な関係を
お互いの人生の1ページに
淡い淡い色彩で
描き残そう
年老いた日に
ふと
色褪せた昔を
懷かしく思い起こすことも
あるかも知れないのだから
# 友達 (313)