勿忘草 作者 箕輪酸素
それ、本気で言ってる?
荒々しい埃まみれの空き部屋に反響するド直球な一言。
私は淡々と言葉を続ける。
「うん。当たり前のことでしょ?」
清々しいように聞こえてたのかもしれない。
「アオイ、あんたおかしくなってる。」
凄い、私の心に直接訴えてる感じだ。
…私、アオイは男になる事にしました。
私は去年初恋の人が出来ました。しかし、彼はちょうど4ヶ月前に転校してしまって疎遠になってしまったのだ。私はそのショックで不登校になり、自傷行為を始めとしてカウンセリングを受けることになっている。私自身、全く自分が異常だと思っていない。むしろ、一途で皆に見習ってほしいくらいだ。
5月23日
私は男になることを決意した。今すぐに男になりたかった。
6月24日
男になりました。違和感はある。でも、彼と同じ体になれたこと。彼と同じ人種になれたことに嬉しく思う。
「どうして、アオイは。」
母が突然泣き崩れてしまった。
母さん、どうして泣いているの?私、なんか悪いことしたのだろうか?母がこんなに泣いているのは私が自傷行為を始めた時以来だ。
「母さん、大丈夫。私、嬉しいよ。自分、大好きだよ。お願い、こんな私でも認めてよ。」
私はきっと声が震えてたと思う。母と真剣な話になることは普段からないからだ。
「アオイ、手術したんだね。…本当に大丈夫なの?心の性と体の性ちゃんと合ってる?」
なにその不気味な確認。内心腹が立った。でも、私は優しいから壊れてる人形を撫でるように君に接するよ。
「ううん、合ってないよ。でも、私は幸せ。」
彼女は少し顔が明るくなってたはず。それはそれでよかったか。
彼に会えることになった。彼は冬休み期間に帰ってくるらしいのだ。彼に見せつけてやりたい。貴方のために私はこんなにも新しくなったのだと。だから、彼に会う前に「勿忘草」を買った。
12月29日
彼に私は新しい自分について語った。そして、彼の好奇心旺盛な質問や彼の純粋な体験談に耳を傾けて楽しい時間を過ごしたと思った。
夕方になって、私は『勿忘草』をあげた。
でも、残念なことに彼は勿忘草を受け取らなかった。逆に俺に『都忘れ』をくれた。
彼が初めて俺にプレゼントをしてくれたんだ。嬉しかった。あの時の冷たい風もあの時感じた彼からの目線も鮮明に覚えていた。
ああ、やっぱり彼が好きだ。
荒々しい埃まみれの空き部屋は俺の部屋だった。俺が住んでる部屋。
俺は部屋に入ると涙が止まらなかった。久しぶりにこんなに感情がむき出しになった。母さん、母さんはこんな気持ちだったのかな。
俺はどんな人生を歩んだ方がよかったの?誰か教えて欲しかったな。
それでも、好きだよ。俺を、いや、私をこんな体にした彼。
4月7日
私の机の上にはたくさんの『勿忘草』がありました。
でも、私の心の中では一生一輪の『都忘れ』が咲いています。
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長いのに見てくれてありがとうございます。