人が持つ五感のうち
死ぬとき最後まで残るのは
聴覚らしい
日々生きる中で
人は多くを覚え、そして忘れる
人が人を忘れる時に
最初に思い出せなくなるのは
その人の声
いつか最後が訪れるなら
その最後に
君に何を言おう
何を伝えよう
───────────────最後の声
綴
たとえば、
君の寝顔に向けて「いってきます」と言う朝だったり
「疲れた」という君に「えーもう?」と毒づきながら合わせる歩幅だったり
洗濯機から取り出した君の抜け殻についた皺を丁寧に伸ばす瞬間だったり
半分こしたドーナツ、少し大きい方を君にあげたり
怖い夢をみた、と夜中に起きてきた君より先に寝ないようにしたり
──────────小さな愛
綴
どんなに頑張ってもその先が見えない時
叫んでももがいても進めない時
どうせ私なんか
なんで私ばっかり
そうやって全部やめてしまいたくなる
実際、その通りなんだ
今、必死に続けていることも
ずっと心にあるその不安も葛藤も
広い宇宙の片隅の小さい地球に在る小さいこの国
その中に存在さえも知ってもらえていないような
ちっぽけな私
確かにここに在る
でもそれを知ってくれている存在は
数えられてしまう
そうだよ
どうせ私なんか、誰も興味ない
私の事なんか、誰も知り得ない
でも、だったら
それでいいんじゃない
見ててくれる人が居なくても
知ってくれる人が居なくても
私が、私を諦めない限り
私の世界は
どんなに小さくても在り続ける
皆、そうなんだよ
それぞれに頑張って、
そこに在ろうと頑張って
虚しいひとり旅を続けている
それでいいんだよ
それでこそ人間なんだよ
だからこそ平等なんだよ
皆、見上げれば同じ空があるのと同じように
さあ、今日も私を生きようか
ほら、空はこんなにも
青色なんだから
──────────────空はこんなにも
綴
未だ早い宵の頃
陽がその姿を隠し、
薄暗い世界の中に
小さな輝きを見つける
月と星が踊る夜
その小さな輝きひとつひとつに
大きな物語を見つける
あれは、私の。
今日も何気ない1日だったが、
こうしてちゃんと生きている。
あれは、今朝すれ違った人の。
あの後どんな時間を過ごしたろうか、
良い日になったならよかったな。
あれは、疎遠になった知人の。
あの時のことはまだ許していないけれど、
元気にしているならいい。
あれは、君の。
大切な、とても大切な人の輝き
今も昔も、そしてこの先もずっと
そこで灯り続けてほしい
願わくば、
君と私の輝きがひとつになって
今よりもっと
大きな輝きになればいい
消えることの無い輝きを
生涯、灯し続けられますように
────────────────── 街の明かり。
君と最後に会った日が
いつまでも
いつまでも
今日でありますようにと願う
できることなら
死がふたりを分かつまで
永遠に
永遠に
じゃあわたしが先に魂になったら
毎日君の前に化けて出よう
君は悪戯っぽく笑う
お化けは怖いなあ
でも、悪くないなあ
わたしだって
もしわたしが先だったら
同じようにするだろう
それは即ち
君と最後に会った日が
永遠に
永遠に
今日であるということだ
いつまでも
いつまでも
二人の日々が続きますように
________君と最後に会った日。