眠りにつく前に
画面を見ると今日1日で貯まったメッセージ
今日1日で知り得たきみの情報
おやすみ で終わったやり取りが
明日への活力を秘めている気がして
不意に暗くなった画面ににやけた顔が映って慌てて指紋を滑らせる
だめだだめだもう寝よう
理想郷
世界の殆どの人は
いや
すべての人はその場所を持っているはずだ
戦争も悲しみも涙もない
時間も重力も相対性理論もそこでは意味を成さない
そこではすべてが叶う
そこでは害を及ぼすものがなにもない
どこにもない善き場所
もう会えない死んだ友がいて
もう会ってくれないかつての友がそこで笑っていて
わたしはこの使い物にならない脚を何でもないかのように翔けさせて彼らの方へ走っていく
この手に抱きしめた温もり
頬に触れる息
耳を劈くような電子音にわたしは目を開ける
頭の中から薄れ始めた今朝のユートピアを完全に消し去る
「あの中で生き残れたんだから、本当に感謝しなくっちゃね」
ああそうだそのとおり、
このすべてがあるディストピアを生きられることを今日も感謝しようじゃないか。
懐かしく思うこと
夕日が当たる廊下を歩く。
あなたがわたしに笑いかけてくれたあの日を思い出す。
あのときに思いを伝えておけばよかったと、何度でも思い返す。
忘れたくても忘れられない
自分の記憶を思い返すと消したい思い出は恥ずかしい思い出とかそういうものかもしれない
だれかの記憶を思い返すと忘れられないのは笑えたりせつなかったりそういうものかもしれない
記憶ってたまにあやふやで不確かで
鋭くて悲しくて
温かくて穏やかで
それだけで頑張れる気がしたり
それだけで外に出るのが怖くなったりもする
ふしぎだよね
ただ時間が流れた
文字にすればそれだけのことなのに
高く高く
バーを超えて眼前に広がる青の美しさを僕は知っている
高く高く
青に届くくらい高く
青に溶けるくらい高く
僕の背中には翼がある