ささいなことでも
その人は今日も歩いて5分のスーパーに居た。
私の好きな店員さん。
このスーパーはセルフレジでも無く、昔ながらのお釣りも手渡し。
ご年配の方にも優しいシステムだ。
「今日、醤油が安いね~。」何て、気安く話してくる近所のおっちゃんにも笑顔で「そうですね~。私も帰りに買って行きます。」
気さくな人柄。
隣のレジの方が空いていても、決まってこの店員さんのレジに並んでしまう。
きゅうりに味噌、冷凍うどん…手際よくレジ打ちが進む。大容量のお買い得こま切れ肉のパック。手元のシャカシャカのポリ袋にさっと詰めてくれる。
この気遣いが嬉しい。
些細なことなのに、今日1日気分も良くなるから不思議だ。
レジカゴが重い時など、後ろのセルフで詰める棚まで、さっと移動までしてくれる。
私は、お年寄りでも小さい子供でも無い、平凡な主婦なのに…。
そんな些細なことでも、私にとってはとても光栄なこと。
ちょっと大げさかもしれないけれど…。
日常の小さな幸せ。
綺麗で良い香りの花に吸い寄せられるミツバチのように、
又次来た時も、この店員さんのレジに私は並ぶだろう。
こころの灯火
朝陽が差し込む。身体はいつも通り重い。背中にブロック塀を背負っているようだ。
中央線の満員電車に揺られて現場へと急ぐ。リュックの中の水筒の氷がカラコロと鳴っている。
なぜだかこの音を聴くと、遠い故郷の祭りを思い出す。あの時ばかりは、屋台のりんご飴やらかき氷…沢山ねだっても怒られなかった。母ちゃんのちりめんのがま口のお財布がやけに大きく頼もしく見えたもんだった。
今日も現場に着く。休憩所の前に立つ警備員の若いあんちゃん。
「おはようございます!今日も暑いですね〜。」
こんな老いぼれの上手い会話の一つも出来ない無口な俺に、いつも決まって笑顔で挨拶をしてくれる。
「おはようさん。」
人間らしく扱われているような一瞬のこころの灯火。
俺にはもったいないくらいの明るい灯火。
消えないように、そっと懐に今日もしまった。