ナナシ

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7/22/2024, 2:27:12 PM

 もしもタイムマシンがあったらいつに行きたい?と聞かれたら、きっと殆どの人は『過去に行きたい』と答えるだろう。殆どの大人は特に学生時代などをやり直したいと言うだろう。というのが僕の意見というか偏見なのだが――それは現実にタイムマシンがないから思い浮かぶ稚拙なことで、現実にタイムマシンがある世界を生きて、それがどのような性能を持つものなのかを知っている僕は違う。僕は――
「こことは違う世界に行きたい」
「ココトハチガウセカイデスネ」
タイムマシンのAIが言った。
「あ、できれば平和なところで」
「リョウカイ」
タイムマシンが稼働しだした。恐らく僕は、明日には犯罪者として手配されているだろう。タイムマシンの真価に気づいて異世界に渡る禁忌を犯したのだから仕方がない。けれどこんな世界から離れられるのだから、とても寂しいとは思わない。
「サン……ニ……」
タイムマシンのAIがカウントを始めた。
「……」
 僕は無言で眼を瞑ってカウントを聞いた。
「イチ……ゼロ」
タイムマシンは新しい世界に向かった。向かったと言っても、一瞬のこと過ぎて移動した自覚すらなかったのだが、どうやら新しい世界に到着したらしい。
「ありがとう」
僕は何となく自分が乗るタイムマシンに礼を言った。
「ドウイタシマシテ。コノセカイデアナタニサチガアランコトヲ」
タイムマシンのAIはとても古い言葉で僕に返した。
 僕がタイムマシンから外に出ると、タイムマシンは消えてしまった。元いた世界に戻ったのだろう。
「行くか」
 改めて辺りを見渡すと、そこは自然と思われる赤色の草原があった。初めて見た本物の植物に僕は感動した。
「まじか……ん?」
 足許が水っぽく湿った気がしたので少し屈んでみた。
「え?」
 そこで気づいた。辺りにある赤色の植物は自然の色ではない。
「血……?」

✳✳✳

「コノセカイデアナタニサチガアランコトヲ……サツジンキサン」

―End―