私、桐島夢芽(きりしまゆめ)には2歳年上のお兄ちゃんがいる。
単刀直入に言うと、私はお兄ちゃんが好き。
お兄ちゃんは至って普通だ。けど、それは客観的視点ではそうだ。お兄ちゃんはとても優しい。小さい頃から私が困ったり、泣いたりしたときは必ず手伝ったり、心配してくれる。そんなお兄ちゃんだからこそだが、小さい頃の私はそこまでの感情は抱いてなかった。
私が5歳の時、家族との買い物帰りの途中、店のショーウインドウに純白のドレスが映っていた。私はそれに興味を示してお母さんに「あれなぁに?」と聞いた。
「あれはね、ウェディングドレスっていう結婚する時に着る服よ。」
「けっこん?」
「好きな人といっしょにずっと暮らすことよ。凪沙も好きな人ができて、いつか着れるといいわね~」
それを知った私はお兄ちゃんに対してちょっとばかしの恋情を抱き始めた。
歳が進むたびに私の恋情は大きくなっていった。私もそうだが、お兄ちゃんも身体ががっしりとして大人に近づいていった。その逞しい身体で抱かれたらと思うとドキドキする。
でも、私達は兄妹であり、それ以上でもそれ以下でもない。これはやってはいけないこと、禁忌なんだと。そう思っていた……。
私は部活が早上がりで直ぐに友達と帰ることができた。帰宅途中で友達と別れ、少ししたらお兄ちゃんの姿を見つけた。
「お兄ちゃ…」
私は目が点になり、担いでいた竹刀を落としたまま立ち尽くした。何故ならそれは、
( な…なんで隣に女がいるの?)
お兄ちゃんにはいるはずのない女がいたからだ。お兄ちゃんとその女は恋人つなぎで手を繋ぎ、お互い楽しそうに笑い合っていた。お兄ちゃんは顔を急に朱にし、女の顎を手に当て……キスをした。
(……もう、いいや……あの女をグチャグチャにして……お兄ちゃんを……ワタシノモノニシテヤル)
私の映る世界がプツリと赤黒く染まった。
最近、俺の妹の様子がおかしい。
普段の妹なら、おしゃべりなやつなんだが、ここ数日の間にいきなり口数が少なくなった。何かあったのか聞き出そうとすると、何でもないみたいに明るく対応されてしまう。こんないきなり口数が減ることなんてどう考えても訳ありだと思う。今は妹が出かけているから、帰ってきたらまた聞くとするか……しつこいかも知れないけど。というか、あいつ自分のスマホ忘れてったぞ。
ティーダノチンポキモチヨスギタロ♪チンポキモチヨスギダロ♪
電話がなったので誰からの着信なのか確認すると、俺の彼女の詩乃(しの)からだった。とりあえず電話に出た。
「どうした?」
「和斗ッ!助けてッ!殺されちゃうッ!」
「わかった!すぐそっち行く!」
電話越しから聞こえた詩乃の様子は誰かから逃げているようだ。俺はとにかく急いで外に出る。走りながらGPSで奈々の現在地を確認すると、俺がいる位置からそう遠くないところにいることが確認できた。
「キャアアアアアーーー!!!」
「ッ!?詩乃オオオ!!!」
(頼む……無事でいてくれっ!……)
奈々の無事を祈りながら、ひたすらに脚を回転させた。
「はぁっ、はぁっ、ここだな!?」
GPSが映す彼女の位置についた。そこは古い住宅街にポツンとある小路だった。とりあえず小路に入り、探し出そうとするが、俺はふとおかしなことに気付き、自分のスマホをもう一度見る。
(詩乃のGPSが暫く全然動いてない…嫌な予感がするがまさか!?)
この小路につくまでに20分ほど掛かったのだが、その間に奈々のGPSが10分ほど動いていないことに気付く。隠れている可能性もあるかもしれないが、まさか殺されているなんてないだろうか…圧倒的に前者であって欲しい。スマホから目を離し、顔を上げると遠くに小さく光っている物体らしきものがあるのが見えた。それが何なのか確かめるため、その光る物体に向かって走り出した。詩乃のスマホだった。
「スマホだけ落としたということなのか?じゃあ詩乃は何処n「お兄ちゃんの探してる人ってこの人?」っな?!」
背後からいきなりかけられた声に反応して振り返るとそこには妹がいた……詩乃の亡骸を引きずり、片手に包丁を持って返り血を浴びた妹が。
「あぁぁ……詩乃ぉ……」
「どうやらそうだったみたいだね!お兄ちゃんの探しものを見つけた私を褒めてよ!」
狂った妹を余所に、酷たらしい姿に変えられた彼女の亡骸を見て、俺はただ絶望し、狼狽えるしかなかった。それ以上に彼女を殺したのが自分の妹である事実が今この場で示されていることがショックでならない。受け入れたくない。夢のままであって欲しい。
「……なんで殺したんだよ!!夢芽!!」
「お兄ちゃんがいけないんだよ……お兄ちゃんがこんな女狐にうつつを抜かすから。いつも後ろから抱きついたり、料理作ったりしてるのに……私がいるのに……私がいればそれでいいのに……ナンデナンデナンデ……なんでこんなやつと!!!」
「ひぃ!?」
「でも安心して。お兄ちゃんに付きまうと女狐は私が消したから……これでお兄ちゃんを取り返せて、独占できる。」
妹は今まで良く俺に抱きついてたり、旨い料理をいつも作っていた。部活もあっていつも忙しいだろうに不満も言わずやってくれていた。これが俺のことが恋愛的に大好きだからということが今わかった。けど、こんな最悪な形で気付いてしまいたくなかった。
「ごめん……ごめん……ぁぁぁ……」
項垂れる俺の顔を血まみれの手で上げて妹は一言告げた。
「お兄ちゃんは私だけを見ていればそれでいいよ……ズットズットオニイチャンハワタシノモノ」
妹は手を顔から離し、抱きとめるために大きく手を広げた。
脱力した俺の身体は妹の胸にそのまま委ねられた。