TSUBAME

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12/8/2022, 2:47:38 AM

電池が切れて
わたしは
茶色い箱に入れられた
あの人はもう
わたしがいなくても起きられるから
他の使わなくなった
時代に置いていかれた物たちと共に
冷たい箱の中に
部屋の片隅へと追いやられた
薄い空気
埃っぽいにおい
狭くて暗くて
時を刻む音もなくして
この空間は
忘れられた物たちの墓場のようだ
わたしは夢など見ない
あの人がふたたび
わたしを必要としてくれるのを
期待したりなんかしない
あの人が輝いていた時間を
わたしはいつも正確に
晴れの日も雨の日も
勤勉に刻み続けた
あの人の中にある時間は
わたしの命が刻んだ時間
役目を終えたこの体が
無へと帰しても
世界のどこかに
わたしは生きている


#部屋の片隅で

12/6/2022, 12:11:34 PM

ひらいたままの傘が
アスファルトで
くるくるまわる
雨上がり
水たまりに映った
逆さまの虹を
いたずらに踏みつけては
あの子を泣かせた
いじわるな衝動は
好きの裏返しなんだと
あの子はわかってくれない
だけど
ぼくにだってわからない
なぜぼくの気持ちはいつも
逆さまになるなのか


#逆さま

12/6/2022, 6:42:44 AM

眠るのが怖くて
祈りに身をゆだねた夜を
いくつも越えてきたけれど
大人になっても
あなたの前では
わたしは子どものままで
あの頃のわたしを知る
あなたにだけは
心を隠せはしない
眠れない夜は
目を閉じて
たましいを開いて
永遠にも思われるような
問いかけの中で
自分を見つけ出すことしか
できない

眠れぬほどに
近くて遠い
狭き門のほとり


#眠れないほど

12/3/2022, 6:51:09 AM

息苦しさにあえぐような
愛に絡めとられ
そこから逃れられるなら
もういっそ
なにをほんとうの愛と呼ぶのか
古い衣服を脱ぎ捨てて
重い荷物を投げ捨てて
身一つになって
自分を真っ白にして
孤独に身を落として
生き直せるのならと思い
やっとここに立てたというのに
今さらなにをためらって
怖がって
地面の影に目を伏せて
ああ 眩しい
あなたを直視できないことが
こんなにもおそろしい
この罪に押し潰されてはなるまいと
必死に自分をとどめ置き
日々あなたの赦しの中で
光の中で
生き永らえたい


#光と闇の狭間で

12/1/2022, 5:57:45 AM

あなたがひとり
流す涙を
知っている人がいる
あなたの苦しみ 
悲しみに
寄り添って
いまも ほら

あなたは知らないだろうけれど
あなたの涙には意味がある
悲しみを知る人にしか
持ちえない強さがある
あなたが思っている弱さは 実は
大きな力にもなりえるのです


#泣かないで

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