頬を撫でた、潮風。
連れてくるのは、あの日の記憶だ。
きみの無邪気な笑顔に誘われて、初めて海に触れたあの日。
忘れてない。
俺が見つけた綺麗な貝殻を、きみは割れないように慎重に持っていたっけ。
割れないように加工して、ネックレスにして手渡したときの、きらきらした表情が今でも胸を締め付ける。
一生大事にする、って。
ありがとう、って。
その細くて、壊れちゃいそうな首に通して、泣きながら笑ったんだ。
でもそのネックレスは今、俺の首にかかっている。
今年も一緒に海来ようね、って言っただろ。
僕の分まで生きて、じゃないだろ。
忘れていいよ、じゃないんだってば。
海から来る冷たい潮風は、頬の涙を拐っていった。
─貝殻─ #55
全ての人に受け入れられるなんて不可能。
全ての人に好かれるなんてあり得ない。
ひかりがあるところには、影が必ず落ちる。
だれだって、光れるよ。
きらめきになろうと思えばだれだってできるよ。
できるよ、できるけど、それぞれ好みの違う人間なんだから評価はまばらだってこと。
受け入れてくれる光があったら、拒絶する影もあるってこと。
それをこころのどこかに入れて生きていこうと思う。
私は、この言葉に救われている。
─きらめき─ #54
些細なことでも消極的に捉えてしまう自分がきらいだった。
でもきみと出会ったあの瞬間から、
どんな些細なことでも幸せを感じられるようになった。
自分をを少しでも好きになれたんだ。
そうやって私を変えてくれたきみにこの想いは伝わることはないけれど。
きみが好き。
─些細なことでも─ #53
心の灯火なんて、どこにあるの?
生きる意味なんてあるの?
灯火が尽きたその先で何を手に入れられるの?
そんな灯火なんて、いる?
そうやって心のどこかで白けた目で見つめていた。
だって、怖いだろう?
そのたったひとつの光が消えたら、どうやって生きていくの。
余計苦しくなるだけじゃないか。
だったら初めからそんなのなくていい。
ああ、だれか生きる意味をください。
生きていいって受け入れてよ、ねえ。
─心の灯火─ #52
好きになったのはいつからだろう。
幼馴染みと呼べる仲でもないけど、小さい頃からお互いを知っているから、お互いだけが自分のままでいられる場所なのだと思っている。
名前のつけられない関係。
この関係は心地よくも、辛くもある。
だってほら。
『俺、好きな奴いるんだけど』
で、始まっているライン。
最初だけそう書いてあるのははっきり分かってしまうから、なかなか開けないライン。
いつかくると思っていた。
お互いがなんでも話せるのはお互いだけ。
だからこんな話題もいつかくるだろうと。
でも、まだラインでよかったのかも、しれない。
直接相談されたりなんかしたら、どうしようもなく苦しくて辛いのを隠せる自信がない。
─開けないLINE─ #51