「どうやって返すのが正解だったんだ…」
今日やるべきことを終わらせて、ベッドに転がりますながらふと今日のことを思い出す。
久しぶりに会えた高校のときの友人と時間を忘れて遊んだ。
もちろん数年の空白を隔てていて会う前は少し不安だったが、そんなものは気づいたらなくなっていた。
ただただ楽しかった。あの頃みたいに、また笑いあえた。
別れ際にあんなこと言われるまでは。
───もし明日を晴らせるんだったら、お前の明日がほしい。
一瞬何言ってるのか脳が理解できなかった。
ようやくそれを噛み砕いて自分の中での結論として出た意味は、明日がいい天気なら明日もこうやって遊びたい。
戸惑いながらも、俺も、と答えるとなにか違ったらしくごめんと謝ってきた─────、
「なー、今日の最後のあの台詞なんだったの?」
なんだか後味が悪くて寝つけることができなかったので、軽い気持ちで電話をかける。
スマホの向こうからは少し物音が聞こえて、それから波打ったように静まり返った。
『…今日の、最後の台詞?』
「なんだっけ。明日を晴らせるなら、俺の明日がほし、い、…と…か…」
語尾が小さくなって、手からスマホが滑り落ちそうになったのは、口に出してみて頭のなかで急にパズルのピースが組合わさっていくような、頭のなかの世界が反転したかのような感覚に陥ったからだ。
俺の、明日がほしい。
いやいや、と頭を横に振る。そんなわけない。こいつが俺に対して言う意味じゃない。解釈違いだ。
今日その場で考えた意味も、ここで今俺が思ったこともきっと解釈違い。
「あ、あのさ、あれ、どういうこと、かなって」
途切れ途切れになる。ばくばくと心臓が高鳴っていることに気づいてしまった。
昔からそういう詩的な言葉を使う奴だった。
もし、俺が思っている意味だとすると。
明日に保証はないから、明日をはっきりさせられたら、明日もその明日も────…、
『…意味自体伝える気はなかったからそんな気にしないでほしい。久しぶりに会えて良かった』
俺が意味に気づいたことが伝わっていたらしい。
ただただツーツーという無機質な電子音に包まれる。
余計に眠れなくなってしまった。
気付けば薄暗い部屋が窓から白み出していた。
─明日、もし晴れたら─ #20
だからひとりでいいって言ったのに。
気づくときみは僕のとなりにいた。
どれだけ無視しようが、きみは僕に絡んでくる。
「僕はひとりがいい」
「どうして?」
「どうしても」
人間は思っている以上に弱い生き物だ。
ふたりでいることに慣れてから、ひとりに戻ると、もともと抱いていた寂しさより、虚無が増す。
ひとの温もりを求めて虚無が増すひとりより、もともと温もりを知らないひとりのほうが僕はいい。
なのに、そう思っていたのに。
きみの温もりを求めているのは紛れもなく僕だった。
それから十年。
…ああもう。だからひとりでいいって言ったのに。
─だから、一人でいたい。─ #19
やめて。
そんな澄んだ瞳で僕を見つめないで。
きみは僕の唯一の眩しい太陽。
だけど、きっとそれは眩しすぎたんだ。
目を細めないと視界にも入れることができない。
きっと僕はきみの隣にいていい人間じゃない。
ほら。またそうやって。
澄みきった瞳に僕を写すから。
また僕の汚い部分が浮き彫りになる。
─澄んだ瞳─ #18
この雨が大雨に変わって、その大雨で嵐が来ようとも。
あの重い雲の向こうは、必ず晴れている。
止まない雨はないと言うけれど、嵐だって同じ。
嵐は激しくて怖いけれど、それがずっと続くわけじゃない。
だって、あの雲の向こうはいつだって晴れているのだから。
─嵐が来ようとも─ #17
「お祭り以外でも会いたい、とか思ったり、して」
きゅっと手を握る。
苦し気に落とされた返事は、ごめん、だった。
「もうこれからのお祭りでも会えない」
「え?」
年に一度だけ。
なのに、それすらもなくされそうになるなら。
…欲張んなきゃ、よかった。
「ごめん。俺、もう時間なかったんだ」
どういう意味?と開きかけた唇。
目があった君の姿を見て、震えた。
どうして、なんで。
でも、全てが全て繋がって理解してしまった。
ああ、だから。
体温がひんやりして涼しげなのも、
透き通るような雪色の肌も、
毎年見るたびに変わらないその背丈も、
そういうこと、だったんだ。
だから、お祭り以外では会えなくて、これから会えなくなる理由が時間がない、なんだ。
じゃあね、と透ける唇が紡いで。
いかないで。いかないで。
慌てて腕を掴もうとした手は、ひんやりとした体温を感じることなく、空を切った。
つうっと伝った透明な涙はお祭りの賑やかな明かりを閉じ込めるように写していた。
─お祭り─ #16