些細なことでも
幸せを数えたい
オニオンスープがおいしいとか
ほうじ茶を飲むと安心するとか
茶色いものがお好きなんですか?
と、キミは首をかしげるけれど
そもそもキミがチョコレートをくれてから
茶色いものが好きになったんだぜ
「些細なことでも」
「勝ったらLINEして。負けたらワンギリ、俺からすぐかけ直すから」
彼氏候補くんはそう言って、アマチュア学生女王戦の決勝前日、あたしをスマホ越しに励ましてくれた。
初優勝して報告のLINEをした。
返信が来たけど、LINEが開けない。
『おめでとう! 祝い飯おごる。好きな店どこ?』
スマホのトップに1行だけ、LINEの通知が表示された。
いまは好きな店は、どこにもない。
それより、彼氏候補くんの部屋にあがりたい。
照れてしまって、LINEが開けない。
開いたら、あたしの心を開くのと同じだから。
うわあ、どうしちゃったんだろ、あたし。
自分の夢が叶ったら、今度は誰かの夢を叶えたくなった。
誰かって、彼氏候補くん、キミのことだよ。
去年の敗退の後、保留したままの返事、待たせてごめん!
今すぐ飛びこんで行くから、今夜からは恋人になろう。
ずっと応援してくれて、ありがとう。
私の強さを好いてくれて、ありがとう。
LINEを開いて、
心を開いて、
……ふたりの人生のドアも開いて行こうね。
「開けないLINE」
あなたを好きになってから、
不完全になってしまった僕は、
不足と不満も知ってしまった。
何ひとつとして不自由な暮らしではなく、
ないものねだりをしない分別が、
人並み以上にあると思っていたのに。
不平ばかり言うようになり、
あなたを戸惑わせ、困らせ、苦悶させ、
なんておろかな僕。
でも、
もしかしたら、
本当は幸せなのかもしれない。
だって、
完全だった頃、
僕はとても不幸だったんだ。
「不完全な僕」
言葉は、いらない。
……ただ、オレはあいつの一生がほしい。
オレがどこまで走っていっても、オレの後ろを必ず守ってくれるから。
オレがどんなに遠くからでも、あいつのもとへ帰れるろうそくの熱を、あいつだけがもっているから。
オレはあいつの一生がほしい。
オレはあいつのすべてがほしい。
オレはあいつがほしい。