27(ツナ)

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12/21/2025, 1:54:20 AM

時を結ぶリボン

近所を散歩していると『喫茶リボン』と書かれた喫茶店を見つけた。前からこんな所にあったっけ?
可愛らしい店名に反して見るからに古そうな店構えに無意識に足が向いて、店の扉を開けてみる。
中にはマスターがひとり。
「…いらっしゃいませ。」
「あ、えっと、まだ始まってなかったですか?」
薄暗くて伽藍どうとした店内の様子につい尻込みしてしまった。
「やってますよ。…どうぞ。」
スッとカウンターへ案内されると、マスターがトレーに乗ったカラフルなリボンをわたしの目の前に置いた。
「これ、は?」
「どうぞ好きな年代をお選びください。」
年代?リボンをよく見るとそれぞれ『70年代』『80年代』『90年代』『2000年代』『2010年代』と刺繍がされていた。
意味はわからなかったけれど、試しに80年代と刺繍されたリボンを取る。

その瞬間、プツンと意識が一瞬切れて再び目を覚ますと、同じ喫茶店の同じカウンターに座っていた。いつの間にか店内は賑わっていて、見渡すとなんだか古い、よくテレビで見るような昭和レトロな風貌の人たちでひしめき合っていた。
変わらないのはマスターだけで思わず声を掛けた。
「あ、あの!さっき、このリボンを取ったらなんか気を失ってしまったみたいで。えっと、なんか、さっきとお店の様子が違くて。」
「先ほどお客様に選んでいただいたリボンは"時を結ぶリボン"この喫茶店の過去へタイムスリップできるものです。リボンを手にしている間のみ、お客様が選んだ時代の喫茶店へタイムスリップできます。」
あまりに突拍子もなくて、理解が追いつかないわたしは思わず笑い出した。
「また来ます。」
「ご来店お待ちしております。」

それがわたしとマスターの最後の会話だった。
『喫茶リボン』跡形も無くなってしまった、あの不思議な喫茶店。わたしは今も探し続けている。

12/19/2025, 11:11:00 AM

手のひらの贈り物

子供のころ、公園で探し物をしていた。
四つ葉のクローバーを探していたけれど、全然見つからない。
落ち込んで地面を眺めていると、知らないお兄さんが声をかけてきた。
「あの…あ、ごめんね急に。もしかして、四つ葉のクローバー探してる?」
警戒しながらも、うんと頷く。
「実は、僕がさっきここの四つ葉のクローバー見つけちゃったんだ。だから、君にあげるね。」
お兄さんの手には何も無かったはずなのに、私の目の前に手を差し出した瞬間、手のひらから四つ葉のクローバーがポンと飛び出した。

私は驚いたけれど、嬉しくてそのクローバーを受け取った。
「すごい!すごい!すごい!お兄ちゃんありがとう。…お兄ちゃん、魔法つかい?」
無邪気にそう言うと、お兄さんは私の頭を軽くポンと撫でて、人差し指を口の前に当てた。
「内緒ね。」
そして、それが私の初恋だった。

12/18/2025, 10:47:40 AM

心の片隅で

頭の中には記憶を貯めておく抽斗がある。
ただ、頭の中の抽斗はあくまで知識や知恵をしまっておくものだ。

感情や気分の記憶を貯蓄しておく所は他にある。
それが心の片隅にある抽斗だ。
『あの時、あんな事をして辛かったな。』
『あの時はこんなに楽しかった。』
『あの時のあれは嬉しかったな。』
『あの時は凄く悔しかった。』
心の片隅には、これまでのありとあらゆる思い出がしまってある。
だから、心を大切にしよう。

12/17/2025, 10:43:55 AM

雪の静寂

人々が寒さを避けて家の中に入った時、私は外へ出る。
見渡す限り誰もいない。
異様な程に静まり返り、まるで人間が一人もいなくなった地球にポツンとひとりだけ残されたような感覚に陥る。
雪がもたらした静寂。
この光景をみる度思う、地球は1個の生命体のようだと。
私たち人間なんて、地球にとって細胞か微生物くらいにしかならない。
それほどちっぽけな存在でしかない。
雪や寒さを敬遠するのも人間のただのエゴでしかないのだ。
雪の静寂の中、私は地球の息吹を聞く。

12/16/2025, 11:03:29 AM

君が見た夢

ある日突然、君は僕に話しかけるようになった。
僕は影が薄くて友達もいないような人間で、君とはなんの接点もなかったのに。
ある日「どうして僕に話しかけてくれるの?」と聞くと君は、
「夢で見たの。」と一言だけ言った。
「どんな夢?」と聞いても君は教えてくれなかった。

それから時は経って、僕も君も大人になった。
僕と君の左手には同じ指輪が光っている。
また君に聞いてみた。
「学生の頃、僕に話しかけるきっかけになった夢は結局、どんな夢だったの?」
君は少し考えてから口を開いた。
「実は言ってなかったんだけど、私、小さい頃から予知夢を見るの。今まで見た夢は必ず現実になっていた。あの時、見たのは私があなたのお嫁さんになる夢。」
そう言って笑うと、君は僕の手をぎゅっと握った。

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