「遠い約束」
メッセージボトルというものを知っているだろうか?
10年前の初夏の頃、浜辺を散歩していると太陽の光が反射してキラキラ光る瓶を見つけた。
拾ってみると、外国のお酒の瓶の中に数枚のコインとメッセージが書かれた紙が入っていた。
858-xxxx-xxxx.
Hi! Nice to meet you, the person who received this letter. I'm Olivia, I'm waiting for your contact!!
(こんにちは! この手紙を受け取った人、はじめまして。私はオリビア、あなたの連絡待ってます!!)
僕はこんなの初めてで、かなり警戒していた。だが、好奇心には勝てず恐る恐る電話番号に連絡してみることにした。
無事にオリビアさんにつながり、お互い慣れない言葉でたどたどしく話す。
「ワタシ、ニホンいく。It's a promise! Wait for me. マテテね。」
お互いカタコトながらも、意気投合して彼女が日本に会いに来ることになった。
アメリカと日本、約10,000kmの遠い約束。
そうして、遠い約束を運んでくれたメッセージボトルは僕たちを繋げてくれた。
彼女は今でも僕の隣で明るく笑っている。
「フラワー」
花の命は短い、花屋にある切り花はもっとだ。
それでも人は誰かに花を贈る。
いつか必ず枯れるからこそ、咲き誇る花は凛として美しい。
いつか必ず亡くなるからこそ、ヒトの命は儚く美しい。
人間と花の一生は似ている。
だからこそ人は誰かに花を贈る。
「新しい地図」
久しぶりに友達と遠出をすることになった。
車のカーナビの更新を忘れて出かけてしまい、山奥の分かれ道で迷った。
携帯の電波も圏外で繋がらず、右か左か迷う。
とりあえず、直感で右へ、全く舗装されていないケモノ道を恐る恐る進んでいく。
広い野原が広がった。色とりどりの草花が咲き、まるで絵の中のような景色と出会えた。
「旅に危険はつきものだな。でも、危険の先には絶景が待ってることもあるのか。」
感慨深く景色を眺めながら呟いた。
「伊能忠敬が日本地図を作った時もこんな感じだったのかな?日本の色んな絶景に出会ったんだろうな。羨ましい〜。」
友達が 少しからかうように笑って応えた。
「好きだよ」
「好きだよ。」
「私のこと好き?」って君に聞かれたから答えただけなのに、君は悲しそうな顔をした。
どうしてそんなこと聞いて、そんな態度とるんだろう?もしかして、浮気バレた?
機嫌を取るために、もう1回言ってあげた。
「好きだよ。」
今度は思い切り頬をぶたれた。
"好き"ってよくわかんねぇ。
「桜」
公園の桜の樹の下から白骨化した女性の屍体が発見された。俺は刑事としてその事件に関わった。たまたま防犯カメラに犯行の一部始終が写っており犯人はしばらくして逮捕された。
俺は逮捕された女の取調を任された。
「動機は?どうして桜の樹の下に埋めようとおもった?」
女は焦点の合わない目で嬉々として語り出した。
「あの子は私を散々コケにした。だから殺しちゃった。人間としてはゴミクズだったけど、桜の養分として綺麗に花葬してあげたかったの、刑事さんも見たでしょ?あの桜。他のと比べて花びらの色が赤みがかってて艶があって…一際、綺麗だったわ……。」
「……桜の樹の下には屍体が埋まっている、か。」
ポツリと呟くと、女は目を輝かせた。
「えぇ!そう!それよ!それが現実になった!刑事さんも、私のこの感動わかってくれるかしら?」
恍惚とする女の顔が脳裏に焼きつき、少しだけ彼女に共感してしまった自分にゾッとした。