安いアパートの窓を
雨が強く叩いている
隙間から入り込んだ雨の匂いが
嫌な言葉だけが飛び交った部屋に
拡散していく
言葉が上手く口から出ずに、
喉の真ん中でぐるぐるしている
痺れを切らして出ていく貴方
乱暴に閉まったドアの衝撃で
棚が揺れる
音を立てて割れた香水の瓶
貴方に選んで貰った大好きな匂い
雨の匂いは、もうしない
筆をとって、色をのせる
小さなカンヴァスの上
落とした色のなんと艶やかなこと
描いた風景は貴方と見たかった場所
彩った思いは貴方に伝えたかった事
絵の中にいる貴方は私の憧れ
焦がれ続けて、届かなかった
この世に二つとない一条の光だったのです
特別な日じゃないのに、
会いに来てくれてありがとう
綺麗なお花と美味しそうなお菓子
とっても嬉しい
どうか、泣かないで
わたしには、どうしようもできないの
あなたの隣にいるのに、
なにもしてあげられない
泣かないで、泣かないで。
大切なあなた。
あなたは、雨のなかで立っている。
ぬれてしまって、
さむくて、ふるえてる。
かたをふるわせて、
雨がほっぺたを伝って落ちていく
雨よ、雨。
どうぞ止んでおくれ。
わたしは、かさなどもっておりませんから、
あなたにさしてあげられないのです。
日記を書こうとすると、
いっとう、素敵な言葉で書きたくなる。
悩んで、悩んで。
思いつかなくて、諦める。
選んだ手帳もまっしろのまま
せっかく残すなら、
嫌な気持ちじゃなくて
嬉しかったことを残したい。
そんなことを考えて、
今日も増えるのは落ちたインクの染みだけ