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4/23/2026, 6:10:20 PM

会社の負債を期日内に返せなかった。努力はしてきたし最善を尽くしたはずだった。でも金額が大き過ぎた。残った額もそれなりの金額。倒産や差し押さえの可能性が高い。ここから立て直すのは今の自分ではかなり厳しいことは長年の経験から分かる。諦めるわけではないが手放す覚悟を持たなければいけないと思った。それはこの会社じゃない、彼女のことだった。
彼女と出会ったのは3年前、俺が働く電気屋にふらっと現れたお客さんだった。最初はよく顔が見えなくてそこらのお客さんと同じに見えたけれど、何やら困っているようでこちらから声を掛けた。顔を上げた彼女に一目惚れをした。彼女は一人暮らしをするとかで家具を見にきていたらしい。新生活用のお得なものを紹介する俺に彼女は「家電って長持ちしますよね?そう簡単に買い替えないですよね?」真っ直ぐな眼差しで質問をしてきた。「そうですね10年は余裕で使えます」「でしたら、新生活のではなくて二人暮らしくらいので揃えて欲しいです。金額は構わないので」彼女のその言葉に俺はまた惚れた。でも彼女はまだ18歳だった。未成年に手を出すのは良くない。彼女が成人するのを大人しく待とうと思った。彼女には好印象を抱いて貰えたようで彼女のお母さんや弟妹も紹介してくれていたからいくらでも方法があると思った。彼女が成人して彼女の代の成人式が終わったタイミングで彼女がお母さんと軽く家電を見にきていたからチャンスだと思って彼女の職場を聞いた。ファミレスで働いてるってこれはチャンスすぎる。しかも俺の職場からも近いし夜も遅くまでやっているらしい。行くしかないと思ってシフトを軽く聞いた。重くならないように意識させないように。彼女は可愛げな笑顔で「もしシフトのことで分からないことがあればぜひご連絡ください」と言ってくれた。それから俺は彼女のファミレスに通い親しくなってデートに誘った。ここだと思って告白したが無惨なまでに振られた。それから半年たったある日彼女のお母さんから連絡が来た。「〇〇さん今がチャンスですよ!」その連絡を受けて彼女に連絡をしたらデートの約束ができた。デート中、俺は抑えきれなくなって他のことを聞いた。他にもかなりアプローチを受けているとのこと。何がなんでも俺が彼女を幸せにしたいと思った。だから再度彼女に結婚前提で告白をした。彼女からようやくYESを貰えた。ここで終わりじゃない。ここからが幸せの絶頂だと思った。
彼女との日々は想像通り最高だった。俺の腕枕で寝るのが好きなところ、俺のために毎朝おにぎりを作ってくれるところ、ころころと表情を変えながら毎日いろんな話をしてくれるところ、俺の料理を美味しそうに食べるところ、言い合いをした後には必ずごめんねって謝ってくれるところ、家ではずっとくっついてくるところ、無防備に薄着で寝転んでは俺を悩ませるところ、言い出したらキリがないくらいに全部の時が幸せで癒しで最高だった。だけど今回のことに彼女を巻き込んではいけないと思った。俺は彼女が愛おしくて愛おしくて仕方ないから一緒にいたいと思うけどそれは俺のエゴでしかない。彼女は可愛くて知性があって誠実で可憐だ。借金まみれ家無し金なしの俺が捕まえておくには勿体なさすぎる。俺が手放せば今の俺よりも幸せにしてくれるんだろう。そう思って彼女に事情を話した上で別れを告げた。「終わりにしましょう」彼女は感情を必死に押さえ込んだような表情で何も言ってこない。これ以上何かを言う必要はないのかもしれないけど、彼女が諦められるようにこの間の些細な言い合いのことを引っ張り出した。「あの時言われたのも正直傷ついたから。」言い合いで感情に任せて彼女が吐いた言葉に傷ついたのは本当だった。でも別れを切り出すほどのことでもない。それに彼女は必死に事の経緯をしっかり説明しようとしたのを俺が拒んだからどちらかと言えば俺の方が悪いわけで、彼女はこんな引っ張り出すほど悪くなかった。彼女の表情を見ると彼女はものすごく落ち込んだような表情をした。「ごめんね、傷つけてしまって。でも誤解をされてるからそれを弁明したいと思うのだけどそれは私のエゴで〇〇さんからしたら言い訳にしか聞こえなくて不愉快になるよね、、本当に傷つけてしまってごめんなさい」彼女の精一杯の謝罪を俺はそうじゃないんだと言いたいけど、言ってしまっては彼女のことだから「なら別れなくていいんじゃない?」と言い出しかねない。彼女が俺のことを好いてくれてるのは一緒に暮らしてる中でよく感じた。でも感情だけでは乗り越えられない。故にこの選択がたとえ間違いだとしても俺は愛してる彼女が不幸にならない方法を選びたい。

3/15/2026, 8:42:55 PM

「私は将来素敵なお嫁さんになるの」
「僕はヒーローになってみんなを守るんだ」
「私はお姫様になって綺麗なドレスを着たい」
「え、、っと僕は消防車になりたい」
口々に将来の夢を話してくれる曇りのない目に日々の疲れで霞んだ私は(いいなぁ。気楽で。能天気)そう思った。思ってはいけないことだとはわかってる。多少の罪悪感がある故、口には絶対に出さない。
「いいねー!みんなならなれるよ!先生みんなが大人になった時に会うの楽しみだなぁ」
思ってもないことが次々出てどこか虚しさに襲われる。大人って本当につまらない。
「先生ってバカなの?」始まった。私を連日悩ませてくる尚紀くん。どこか達観していて年齢に相応しくないことを言っては他の子供たちを泣かせている。しまいには、保育士である私にもこんな発言を容赦なくしてくる。
「こーら!人に対してバカとか言わないよ」
「だってバカじゃん!ヒーローとかお姫様とかそんな大人この世にいないじゃん夢見過ぎでしょ笑」
私も心の中で思ってしまう手前、これに返せる言葉が正直に見つからない。

ガラガラ…

「あらあら、夢の見過ぎは言い過ぎですよ。尚紀くんに先生の秘密を伝えますね、尚紀くんのママやパパ、ここに来てるみんなのママとパパはとっても強いヒーローですよ。この世の中はみんなのママやパパお仕事に行ってるのはこの世の中を動かすためなのよ。もし、みんなのママやパパがお仕事を『ヤダヤダ』と言ったらお菓子を買うことも電車に乗ることも電気をつけることもできないのよ。みんなのママやパパはこの世界の人を救っているのよ!だからとってもかっこいいヒーローなの!それに先生ね、保育園ではみんなとかけっこするためにズボンを履いてるけどお家ではドレスを着てダンスをしたりするから実はお姫様なんだよ」
タイミングを測ってか、園長先生が教室に入ってきて話をする。尚紀くんをはじめ、園児たちが耳を傾けては顔を輝かせる。
「ふーん」尚紀くんは納得したことを素直に認めたくなかったのか照れくさそうに返事して積み木を始めていた。
園長先生は私ににこやかに笑いかけてから園児たちと将来の夢についていろんな話をしていた。

園長先生の話を聞いて私も納得をした。大袈裟なヒーローでないかもしれないけど、確かにヒーローだと思う。そのヒーローたちがいるから私は今ここにいてこんなにも輝く星たちを近くで見守れる。
この部屋は星が溢れてる。私も何か夢をもう一度持ってみようかな。星になりたいな。