#雨に佇む
雨が降ってきた。
先程まではからりと晴れていたというのに。
ザァザァと雨が空から落ちてくる。
この音を聴いていると、この世に自分一人しか居ないのではないか、なんて馬鹿げた考えが頭を占める。
走って帰った方が速いかな。
僕は、買ったものを自分の服の中に隠して雨の中に飛び出した。
#私の日記帳
私の日記帳には、あなたと二人の思い出が沢山書かれているの。
初めて会った日、初めて2人で会話をした日、告白されて付き合い始めた日。デートをした日、初めてをあなたに捧げた日。あなたに、別れを告げられた日。
だけどね、お別れだけは考え直してくれたみたいで良かった。ってとても安心したのよ。
あなたと二人でこれからも生きていきたいの。
だから、私を捨てようだなんて、今後一切考えちゃ、だめよ?
幼子を諭すようにそういった彼女の瞳はとても淀んでいて、とても"彼氏"に向けるような顔ではなかった。と、彼女の元彼の手帳に書かれていた。
その日記が書かれた日以降に、彼が今どこにいるのか、知っているものは居ない。
#向かい合わせ
君と机を挟んで向かい合わせに座る。
久方ぶりの君との食事。
楽しみで楽しみで、出汁から取って君の好きなものを沢山作ったんだよ。
それなのに、君は一言、「いらない。」だって。
「俺はお前以外に好きな人が出来た。別れてくれ。」
なんて残酷なんだろう。
君と付き合って早5年。君が待っててと言ったから、結婚の話も出さなかったのに。
ねぇ、知ってる?私もう三十路なんだよ?
君のわがままに付き合ってここまで待ったのに、好きな人が出来た?
はは、許さない。許せるわけ、ないよね。
殺してやる、殺してやる、殺してやる!!
交際相手を殺した女性の日記。これ以上は黒く塗りつぶされて読めなくなっていた。
#やるせない気持ち
今日は君の誕生日。
だからという訳でもないけど、偶にはぼくが家事を全部やってみようと思ったんだ。
君は今日も仕事だと言うから、僕は一日有給をとって、普段半分こしてた家事を、やってみた。
掃除や洗濯に、誕生日のご馳走作り。
とっても疲れたよ。
だけど、君はいつも僕の倍以上やってくれてたんだね。それに気づいた僕は、なんて不甲斐ないのかとやるせない気持ちになったよ。
ごめんね、いつもありがとう。
これからはもっと家事をするよ。君だけに負担が行かないように。君と同じかそれ以上にやってみせる。
だから、僕を見捨てないでね。
#海へ
海へ行こう。そう言い出したのは僕か君、どっちだったかな。
暑い夏の日のこと。
あの日に海に行かなければ、僕は体が動かなくなることはなかった。
君と、永遠の別れになることなどなかった。
だから僕は、海が、夏が嫌いだ。
君との別れの原因になった時期だから。