テーブルの上のキャンドルが揺れる。
キャンドルの周りにはたくさんのごちそうがある。
でも、それは私の為じゃない。
イエス・キリストとかいう奴の為。その誕生日の前日とかいう、よくわからない祝いの為だ。
私だって誕生日なのに。なぜかまとめて祝われる。誕生日ですらない奴とまとめて。
だから、私は今日という日が嫌いだった。
ケーキが運ばれてくる。一つしかないケーキが。
ケーキには、私の歳の数だけのろうそくが並んでいる。
「お誕生日おめでとう」
その言葉は誰に向けたものなのか。
私はムスッとしたまま、そのケーキを見つめた。
「どうしたの? 嬉しくないの?」
「知らないおじさんの誕生日と一緒にお祝いされても、嬉しくない」
「知らないおじさん? 何言ってるの。今日はあなたの為の日よ。あなたをお祝いする為の日」
「でも、今日はクリスマスイブだし……」
母が溜息を吐いて、ケーキの真ん中に乗ったプレートを指差す。
「ここになんて書いてある?」
そこには『お誕生日おめでとう』のメッセージと、私の名前が刻まれていた。
「今日は、あなたが生まれたことをお祝いする日なの。クリスマスなんて二の次よ」
たしかに、これだけ見ると、クリスマスなんて関係ない。私を祝う為の誕生日パーティーだった。
「でも……」
「ほら、これも開けてみて」
プレゼントを渡される。
その中には、私がずっと欲しいと言っていた動物達の人形が入っていた。
思わず目を輝かせる。
「お誕生日おめでとう」
ようやく納得した私は、私の為に用意されたろうそくの日を吹き消した。
でも、後からよく考えてみて気付いたけど、ケーキやプレゼントはクリスマスとまとめられてしまっているし、結局損している感じは変わらないんだよね。
『揺れるキャンドル』
異国の寺院の長い長い回廊を歩く。
静けさが漂う庭を横目に、案内人の後を着いていく。光が射して、とても心地が良い。
旅の中で、たまにはこんな休息の時間があってもいい。
この寺院には、自国の王に言われてやって来た。
魔王を倒す旅を続ける俺に、この寺院の僧正は強い力を持っている。きっと力になるだろう。と。
でもたしかこの回廊、急にモンスターが現れるんだよな。しかも、この寺院の僧正がこのエリアのボスだったはず。かなり強かった記憶あるなぁ。
……ん?
何の話だ? 急にモンスターが現れる? エリアのボス……?
長い回廊を歩く中で、唐突に思い出した。
ここはゲームの中だ。
間違いない。転生というやつか。これは前世で俺がやっていたゲームだ。そして、そのゲームの主人公になっているのが今の俺だ。
寺院だから、何か不思議な力でも働いたのだろうか。
一瞬混乱したが、すぐに気を取り直す。
僧正は強い。しかし、今の俺は戦い方を覚えている。きっとこれは、必ず倒せという神の思し召しだ。
光の中で、徐ろに剣の柄を握った。
『光の回廊』
貴方への想いが降り積もっていく。
たくさんたくさん。
貴方の為に何でも買った。
CDも、Tシャツも、タオルも、ペンライトも、缶バッジも、アクリルキーホルダーも、アクリルスタンドも、何でも。
貴方が欲しくて。
貴方の為に何でも作った。
うちわも、メッセージボードも、ポンポンも、痛バッグも、何でも。
貴方を支える為に。
貴方への想いが降り積もっていく。
貴方への想いが降り積もり過ぎて――。
部屋の床が抜けた。
『降り積もる想い』
家の中を整理していると、鏡台の引き出しの奥の方から、古い箱が出てきた。
その箱を開くと、かわいらしいリボンの髪留めが入っていた。
そのリボンには見覚えがあった。
どこで見たのか記憶を探る。そして思い出した。
書斎の一角にまとめられたアルバムから、それを見つけ出した。
母の、私が生まれる前の写真。
母と父が寄り添って笑っている。その母の頭に乗っているのが、まさしくこのリボンだった。
母の宝物だったのかな。
だって、この写真の母は特別幸せそうに見えた。
その、母のリボンの髪留めを、自分の頭につけてみる。
笑った顔は、母にそっくりだった。
『時を結ぶリボン』
「今年はサンタさんに何をお願いするの?」
今年引っ越してきたばかりで、まだ周りに慣れていない。友達とも離れ、さぞかし寂しい思いをしているだろう。
せめてクリスマスだけでも盛大に。プレゼントも豪華にして楽しんでもらおうと、お母さんが女の子に尋ねた。
女の子はその言葉にすぐさま目を輝かせた。
「キラキラしたもの!」
キラキラしたもの? 宝石とかそういう?
さすがにそれはまだ早い。おもちゃの宝石でいいだろうか。
そうしてプレゼントを決め、クリスマス当日がやって来た。
天気は悪く、厚い雲が空を覆っていた。
「今日は冷えるわねぇ」
予約していたケーキを受け取りに、お母さんは女の子と共に道を歩いていた。
突然、女の子が声を上げた。
「キラキラ!」
「え?」
女の子がお母さんに向かって手を差し出す。
手袋をはめたその手の平の上に、小さな雪の結晶が乗っていた。
「……雪?」
見上げると、雪が舞い出していた。
今まで南の方に住んでいた女の子が雪を見るのは、これが初めてだった。
「キラキラ! わぁー」
「キラキラって……」
「サンタさん、ありがとう!」
女の子が喜ぶ顔を見て、お母さんもサンタクロースに感謝した。
『手のひらの贈り物』